浸水、土砂崩れ…高齢者施設の避難はどうすれば 国も検討開始

2020年10月15日 06時00分

台風19号による浸水被害で、救助活動が行われた特別養護老人ホーム埼玉県川越市の「川越キングス・ガーデン」周辺=昨年10月13日、本社ヘリ「あさづる」から

 昨年10月に各地に被害をもたらした台風19号で、埼玉県川越市の特別養護老人ホーム「キングス・ガーデン」は建物1階が水没し、利用者と職員約120人が一時孤立した。施設は過去にも水害に襲われており、移転を決めている。近年、高齢者福祉施設が浸水や土砂崩れに遭うケースは全国で相次いでおり、国は避難方法の確保策づくりを急いでいる。(中里宏、梅野光春)

◆「二度とあんな思いは…」移転を決意

 「台風北上のニュースを見ると、今もドキドキする」。台風14号が関東地方に接近した今月9日。川越市の特別養護老人ホーム「川越キングス・ガーデン」の渡辺圭司施設長(58)は、不安そうに語った。
 台風19号による大雨で同市を流れる越辺川の堤防が決壊。施設3棟のうち平屋のA棟、B棟は床上約1・5メートルまで水没した。寝たきりや足が不自由な利用者が多く、浸水が深くなる前に2階建てのC棟2階にベッドごと運ぶなどし、犠牲者は出さずに済んだ。
 しかし、一帯は1999年も水害に遭っており、施設を運営する社会福祉法人は「利用者に二度とあの恐ろしい思いはさせられない」と移転を決断。被災後、利用者は他の施設に分散避難を続け、今年4月からは市内に作られた福祉仮設住宅に約60人が入居した。

水が引いた後の川越キングス・ガーデンA棟。床が泥の海と化していた =昨年10月15日

 ただ入居期限は2年間。新型コロナウイルス対応も迫られる中で移転先選定を急ぎ、20カ所近い候補地の中から市内の候補地の仮契約にこぎ着けた。2022年春の移転を目指す。
 渡辺さんは「旧施設から約3キロなので、ご家族にも安心してもらえると思う。多くの人に助けられ、行政の支援を受けながら、ここまでこれた。恩返しできるように、新施設完成後は福祉避難所として被災者を優先して受け入れられるようにしたい」と話した。

◆浸水リスクある施設、避難計画の作成率は54%

 今年7月、熊本県南部などを襲った豪雨では、同県球磨村の特養ホーム「千寿園」は1階が水没、2階などへ逃げられなかった14人が亡くなった。厚生労働省と国土交通省は今月7日、減災や高齢者福祉の専門家9人を集めた検討会を設置した。
 山口県防府市で2009年7月、土石流で特養入居者7人が亡くなった事例なども視野に、年度内に避難方法の確保策をまとめる。また厚労省は、千寿園のようにエレベーターがない施設に、上層階への避難用エレベーターの設置費を補助する制度を年度内に新設する。
 一方、高齢者福祉施設や障害者支援施設、小中学校などを含めた「要配慮者利用施設」のうち、浸水リスクのある約8万6000施設に義務付けられた避難計画の作成率は、今年6月時点で54・5%にとどまる。
 作成が義務化されたのは17年。国交省の担当者は「避難計画に基づいて訓練し、計画を手直しすることで実効性が高まる。そのためにも、21年度末の作成率100%を目指す」とする。特養などの入居者は通常の避難所ではケアが難しく、近くの同種施設との連携も提案している。
 同志社大の立木茂雄教授(福祉防災学)は「コストの問題や迷惑施設扱いをされることで、危険な場所にある施設は多い。盛り土の追加や避難訓練など、防災に力を入れた施設には介護保険からの給付を上乗せするなどの政策も必要だ」と話している。

関連キーワード

PR情報

社会の最新ニュース

記事一覧