<新聞週間特集>東京最奥の販売店「東京新聞あきる野五日市専売店」 真夜中の山道を行く

2020年10月16日 07時15分
 「東京新聞あきる野五日市専売店」(あきる野市)は、都内最西端にある専売店。神奈川、山梨両県と接するエリアを、最長で往復九十キロをバイクで配達する。シカやイノシシに遭遇するのは日常茶飯事、三十センチの積雪でもスタッドレスタイヤを装着し、山道を登る。都市部とは異なる仕事ぶりの一端を紹介する。二十一日まで、新聞週間。
 JR武蔵五日市駅前にある専売店は、午前零時すぎから活気づく。届いたばかりの朝刊に折り込みチラシを挟み、バイクに積み込む。
 同市西側と日の出町、檜原村の全域の配達エリアを六人で分担する。同村を担当する土田知樹さん(36)は毎日往復九十キロ走るという。千百六十七世帯(十月一日現在)の村内で、東京新聞を約百二十軒に届ける。
 同零時四十五分、出発。バイクはメインルートの都道をしばしば外れ、集落内の細い道を縫うように走る。空には満天の星、川のせせらぎだけが聞こえる。村の南側を配り終えた土田さんはUターンして村役場近くの分岐点まで戻り、北側に向かう。店に戻ったのは午前四時半。
 「配達する家は体が覚えている」という土田さんは、配達員歴十七年のベテラン。配達ミスはほとんどしたことがないという。「一部足りない、余ったと、引き返すのは大変ですから」。たしかに、気が遠くなりそうだ。
 店主の栗原健さん(66)は二十七歳から配達を始め、三十八歳で先代から店主を引き継いだ。毎日昼すぎに出勤し、読者対応、バイク修理を行い、檜原村内の集金には自ら出向く。
 バイクのタイヤ交換だけでも年間百二十本。遠距離を走る土田さんのバイクには予備の燃料タンクも付けた。バイクの寿命は走行距離十万キロと言われるが、「うちのは二十万キロは走る」。
 家族旅行の暇もないが、「新聞を楽しみに待ってくれるお客さんがいる。いろんな年齢、職業の人と交流できるのがこの商売のいいところ」。小学生の頃にハンカチをプレゼントした配達先の子どもが、大人になって当時の思い出を話してくれたり、一人暮らしのお年寄り宅で集金ついでにおしゃべりしたり。
 昨秋の台風19号では、土砂崩れで村内の道路が寸断された。栗原さんは車に新聞を積み、山梨県側から村に入った。「来てくれたの!?」と驚き、喜ぶ読者の顔が忘れられない。
 ただ最近は、高齢化が進み、「視力が落ちたから」などと購読をやめる人もいる。それに伴い、販売店の大きな収入源である折り込みチラシも影響を受けている。「息子に継がせるかと言われたら…」
 「でも」と、栗原さんは語気を強める。「情報収集力が一番あるのは新聞社。それが衰退しちゃったら、正確な情報が世に伝わらなくなる」。知る権利、表現の自由を守るために、新聞社はもっと頑張れ、とハッパを掛けられた。

(1)店着 0時4分 JR武蔵五日市駅前にある店に朝刊が到着。店員が店内に運び込む


(2)チラシ 0時10分 朝刊に折り込みチラシが挟まれる。右は店主の栗原さん


(3)出発準備 0時24分 朝刊の束をバイクに積み込み、各店員が配達に出発


(4)配達 1時24分 朝刊を届けるため山道を走る土田さん=檜原村で


(5)投函(とうかん) 1時47分まだ暗い中、檜原村の読者に新聞を届ける土田さん


◆親子をつなぐ新聞

新聞を見ながら母の萱場明子さん(手前)と話すつむぎさん=檜原村で

 今回の取材は、檜原村人里(へんぼり)の絵本作家萱場明子さん(49)が3月、「休校中の息子が新聞をよく読むようになった」と投稿してくれたのがきっかけだった。武蔵五日市駅からバスで50分。バス停から坂を上って20分。窓から壮大な山並みを望む自宅を訪ねた。
 宮大工を目指して奈良県内で修業中の長男(19)の中学入学を機に、本紙の購読を始めた。次男で小学6年のつむぎさん(12)は、新聞を読む兄をまねて、配達バイクの音がすると、家を飛び出していったそうだ。当時配達を担当していた高齢男性とのおしゃべりを兄弟で楽しみにしていたとか。
 萱場さん宅にはテレビがない。野球好きのつむぎさんは、以前は運動面とラジオ欄をチェックするだけだったが、今では登校前と帰宅後にじっくり目を通す。「檜原村のことが出てるよ」などと、母に知らせることも。阪神が勝った日の記事の切り抜き帳は2年目に入った。
 萱場さんは建築関係の記事を切り抜き、長男に送っている。「実は、今年もエープリルフールの特報面の『サルインバウンド』の記事を信じて、お兄ちゃんに電話しちゃいました」。新聞が、家族3人をつないでいる。
文・小形佳奈/写真・戸田泰雅
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