<評>菊五郎の宗五郎 胸に迫る絶品 国立劇場 10月歌舞伎公演など

2020年10月16日 07時52分

「新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎」の菊五郎(国立劇場提供)

 短い上演時間、一つおきの座席など、当初はひどく異様に感じた歌舞伎の上演方式がさほどには思われなくなってきた。コロナ禍が無事終息したとして、これが観客の感覚に何らかの変化をもたらすかどうか。
 国立劇場が二部制で歌舞伎公演を再開した。中では第二部の「新皿屋舗月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ) 魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)」が絶品。尾上菊五郎の宗五郎が花道を出て、市村橘太郎の鳶(とび)の者と言葉を交わすところから、しんみりとした苦みと哀(かな)しみが舞台一杯に広がる。いきり立つ皆を諫(いさ)める長ぜりふ、おなぎとのやりとり、目の据わった酔態まで息をつかせぬ充実ぶり。見慣れた演目と思いのほか、娘の突然の死を突き付けられた家族の情が改めてしみじみと胸に迫った。中村時蔵のおはま、市村萬次郎の菊茶屋女房、市川団蔵の太兵衛、河原崎権十郎の三吉、中村梅枝のおなぎまで、隙のない鉄壁のアンサンブルが芝居の快いリズムを支える。第二部は他に尾上松緑が踊りの巧(うま)さを発揮する「太刀盗人(たちぬすびと)」。
 第一部「ひらかな盛衰記 源太勘当」の中村梅玉の源太は持ち味の柔らかさ、爽やかさがぴったりとはまる。松本幸四郎の平次が愛嬌(あいきょう)も手強(てづよ)さもあって好演。中村魁春の延寿、中村扇雀の千鳥。新作の「幸希芝居遊(さちねがうしばいごっこ)」は、興行停止となった芝居小屋の楽屋で役者がさまざまな役を演じあって興じるという趣向。二十七日まで。
 歌舞伎座は第三部「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」の片岡仁左衛門がいい。ことに刀の目利きや物語で義太夫に乗る具合のおもしろさ。また六郎太夫を諭すせりふに滋味があふれる。中村歌六の六郎太夫、片岡孝太郎の梢(こずえ)。二十七日(十九日は休演)まで。
 (矢内賢二=歌舞伎研究家)

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