事故の悲惨さ/安保法の余波/子どもの幸せ

2020年10月16日 08時00分

井上真典(36歳)社会部

◆事故の悲惨さ

 池袋暴走事故で妻子を亡くした松永拓也さん(34)の涙する姿を何度も見てきた。事故から一年を迎える前、自宅での取材を終え、帰ろうとした時、「この前、外を友人と歩いていたら、元気そうですねって言われちゃって」とぽつり。見ず知らずの人で、相手に悪気がないことも松永さんは分かっている。
 事故のことをふと思い出し、ズンと気持ちが沈み、仕事中に手が動かなくなる時があるという。そんな時、目をつぶり二人を思い出す。愛してるよ、感謝してるよって心の中で伝えると心が安定するそうだ。事故時だけでなく、その後の「非日常」を通して、事故の悲惨さを読者に伝えなければと感じた。

◆安保法の余波

 集団的自衛権の行使に道を開いた安全保障関連法の成立から九月で五年がたった。六年前に取材した北海道の田舎町で、アパートの室内に干してあった子ども服の洗剤の香りを思い出した。イラクに派遣され、帰国後に自殺した隊員の妻を訪ねた時のことだ。
 夫は、事実上の「戦場」で任務を終えた後、幻聴にうなされて精神科に通院。自ら命を絶った。「パパはなんで死んじゃったのって、子どもに聞かれるのがつらい」。夫を支えられなかったことを後悔していた。
 自衛隊の海外での活動は大幅に増える可能性があり、「敵基地攻撃能力」の議論も進む。安保政策は隊員だけでなく、その家族へも影響する。今の議論を女性はどう見ているだろうか。

◆子どもの幸せ

 大手菓子メーカーに過剰包装をなくすよう署名活動をしていた都内の女子生徒を記事で取り上げると、生徒はインターネットで中傷を受けた。
 生徒の母親からメールが届いた。予期せぬ批判で娘につらい経験をさせたが、家族で気にしない姿勢を貫き、乗り切ったという。娘を応援する一方、「親としてただ思ったことは、中傷に遭わず、幸せな生活を送ってほしいということでした」と複雑な思いをにじませた。
 私にも来年、初めて娘が生まれる。妻のおなかに触れると、ときどきつつくような反応がある。子をどう育てていけば良いのか。生徒の母親の思いから考えさせられた。
<いのうえ・まさのり> 群馬県出身。2010年入社。警視庁で詐欺や贈収賄、交通事故を担当。登山が趣味で、到着した山小屋で、昼すぎからウイスキーをちびちび飲むのが至福の時間。

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