ネクスト・シェア ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム ネイサン・シュナイダー著

2020年10月18日 07時00分

◆信頼でつながる未来の経済
[評] 近内悠太(教育者・哲学研究者)

 現代的な協同組合という制度は、十九世紀イギリスのロッチデールという町から始まった。この町の労働者グループがロッチデール公正先駆者組合という組織を立ち上げ、そこにおいて、店の組合員兼所有者は顧客でもあり、なおかつ自らが出資し、組合の意思決定には平等に一票を投じる権利を持つといった実践が始まったのだ。「ロッチデールの重要性は、受益者――ニーズを持つ人々――に責任を持たせた点だった」。著者であるネイサン・シュナイダーはそう語る。
 本書に登場するさまざまな「協同」において、「責任」というのは一つのキーワードだ。
 例えば、大学卒業生の学生ローンを負担の軽い条件で借り換えさせ、その後も貸し手がメンター(助言者)となり必要な収入源探しをサポートするという、ある金融協同組合が紹介されているが、その協同組合の発案者の次の言葉にもそれが示されている。「パートナーと私は学生ローンの負担に苦しんだことがなかったので、苦しんでいる若者たちを支援する義務があると感じているんです」。ここにあるのは、自らが感じた義務を果たすという責任である。そのような組織であれば、金融機関であったとしても、互いの信頼を高める方へと人を促すことができる、と述べられている。著者はそのような場を「コモンウェルス」という語で表現する。
 古くは「公共の福祉」を意味していた「コモンウェルス」を現代的な形で実装するにはどうすればよいのだろうか。そこには資本主義、つまり市場経済との相克がある。協同組合という制度がそのような対立を止揚し、乗り越えるかどうかは分からない。おそらく、それほど単純な解は存在しないのだろう。
 では、われわれは何をすべきか。それは、市場経済から零(こぼ)れ落ちるものを補完する新しい経済の可能性をできる限り挙げることだろう。本書にはさまざまな協同の形が紹介されている。そのような実践の中に、未来の経済の萌芽(ほうが)が潜んでいるのかもしれない。
(月谷真紀訳、東洋経済新報社・2860円)
 ジャーナリスト、コロラド大学ボルダー校助教授。各紙誌に寄稿。

◆もう1冊

斎藤幸平著『人新世の「資本論」』(集英社新書)

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