モード後の世界 栗野宏文著

2020年10月18日 07時00分

◆価値創出へ 服の新潮流
[評]渡辺明日香 (共立女子短大教授)

 ファッションが「まっとう」なものだということを、誰かが言い続けなければ、単なる流行やソーシャルメディアの道具で終わってしまう。著者は、セレクトショップのユナイテッドアローズ創始者の一人で、同社上級顧問でありクリエイティブ・ディレクションを担う。世界のファッションと永く伴走し、その変容を体感してきた経験から、ファッションは社会潮流に根ざしていると語る。
 コロナ禍、アパレル危機、欲求不満の発露としてのファストファッション、大量消費と廃棄の問題−。混迷渦中にあるファッション業界に対し、西洋的価値観の行き詰まり、脅迫型消費が終焉(しゅうえん)に近づいていること、ラグジュアリーブランドに価値の棄損(きそん)が生じていること等、現状の問題点を指摘する。
 一方、今後の方向性として、サスティナビリティに配慮し、時代を捉え未来をつくるため歴史を考察すること、アフリカの美しいビーズ刺繍(ししゅう)や織物といった手仕事を例としながら、新しい美意識や価値観を創出すること、自分の頭で考えて意思決定することの重要性を説く。
 政治、経済、時事問題、映画、音楽、アートなどさまざまなトピックスを引き合いに、平易でありながら、服を愛(いつく)しみ、深い思考に基づく言及は、先が見通せない私たちに多くのヒントを与えてくれる。
 表紙には「f=cb」という法則めいた記号があり、「fashion=culture×business」という文言が示されている。ファッションは、文化(への敬意)と(人々の生業としての)ビジネスの掛け合わせで成立するという考え方は、ピケティが『21世紀の資本』で示した格差拡大要因としての不等式r(資本収益率)>g(経済成長率)、あるいはアトキンソン『21世紀の不平等』での格差・不平等論を受けているようにも読める。
 不等号でも否定等号でもない「平等」。多様な社会とそこに生きる人々に対する平等で寛容な姿勢こそ、「モード後の世界」のドレスコードとなるに違いない。
(扶桑社・1650円)
 1953年生まれ。89年にアパレルブランドのユナイテッドアローズ設立。

◆もう1冊 

福田稔著『2030年アパレルの未来』(東洋経済新報社)

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