脱炭素か化石燃料か 地球温暖化対策の行方を占う 「シェール革命」のオハイオ州<米大統領選ルポ>

2020年10月17日 23時58分
 11月の米大統領選は、2酸化炭素(CO2)排出量世界第2位の米国の地球環境政策の行方を左右する。共和党のトランプ大統領(74)が地球温暖化対策に背を向けているのに対し、民主党のバイデン前副大統領(77)が「脱炭素」で世界をけん引する政策を標ぼうしているからだ。「シェール革命」が起きた全米有数のエネルギー州で激戦の中西部オハイオ州を歩いた。(同州で、金杉貴雄、写真も)

建設中のシェールガスの火力発電所=米中西部オハイオ州モンロー郡で

◆政治的に壊滅

 オハイオ州東部に位置し、人口それぞれ7万人ほどのジェファソン郡とベルモント郡。街のあちこちにシェールガスの井戸が掘られ、大型車両が行き交う。
 「この土地に来て『CO2排出をゼロにしたい』とか『シェールを採掘するフラッキング(水圧破砕法)に反対』と言ったら、その候補者は政治的に壊滅だよ」
 山あいにある事務所で、建設業に携わるクリント・パウエルさん(44)は顔を曇らせた。念頭にあるのは支持する民主党バイデン氏の政策のことだ。

シェールガス・石油が地域にもたらす恩恵について語るクリント・パウエルさん=中西部オハイオ州ジェファーソン郡で

 ラストベルト(さびついた工業地帯)に位置する同州のこの一帯は、1970年代まで製鉄で栄えた。だが以降は海外との価格競争に敗れ、11基あった高炉は全てつぶれ荒廃した。
 そこに起きたのが「シェール革命」ブームだった。地中深くの頁岩(シェール)から天然ガスや石油を安価に取り出すフラッキングが開発され、世界最大級の天然ガス埋蔵量を誇る頁岩層の一角に位置するこの周辺には2012年以降、開発業者が押し寄せ、3000カ所近い井戸が掘削され活況が続く。パイプラインや発電、化学製品の工場、道路、ホテル…関連の建設波及は幅広く、今やシェールなしで地域は成り立たない。
 建設関係の地元労働組合に所属するパウエルさんは、労組を重視するバイデン氏に投票するつもりだが、自らの仕事を考えると不安はぬぐえない。「バイデン氏がガスと石油に前向きになるといいが…。環境重視に極端に走るなら支持を得るのは難しい」
◆温暖化対策に伴う痛み
 バイデン氏は7月、地球温暖化対策で「50年までにCO2排出実質ゼロ」を掲げ、環境インフラに4年で2兆ドル(約210兆円)の巨費を投じ雇用を生むとの政策を発表した。左派サンダース上院議員らの環境政策「グリーン・ニューディール」を参考にした提案で、リベラルな若者らの支持を取り込む狙いだ。
 中でも「35年までに発電でのCO2排出ゼロ」は高い目標だ。環境政策に詳しいカリフォルニア大のリア・ストークス助教授は「バイデン氏は米史上、気候変動対策で最も野心的で前例のない提案をした候補者になった」と指摘する。
 だが18年の米国の発電割合は天然ガス34%、石炭28%と化石燃料で6割を占め、再生可能エネルギーは18%のみ。「排出ゼロ」にはCO2の回収・貯蔵で大気に放出しない手法も一部含むとみられるが、わずか15年間で達成するとすれば化石燃料の大幅削減は避けられず、そこに携わる人々に相当な痛みと困難を伴うことが予想される。
 オハイオ川の雄大な流れに沿って車を走らせると、巨大な建物が突然目の前に現れた。モンロー郡に建設中のシェールガスを使う新たな火力発電所で、1年後に完成する予定だという。
 案内してくれたコンサルティング法人幹部のグレッグ・コゼラさん(67)は、バイデン氏の政策について「心配しているが、(大統領に就任したら)言わなくなる政策もある」と暗に撤回を求めた。

◆トランプ氏の攻撃

 トランプ氏はバイデン氏とは全く逆の立場だ。地球温暖化を「でっち上げ」と発言したこともあり、国際枠組み「パリ協定」からの離脱を通告し、オバマ前政権時代の環境規制を次々と見直し業界を後押し。米国はトランプ政権下で天然ガス、原油の生産が増え続け、現在ともに世界一だ。
 大統領選では1900年以降、2回を除きオハイオ州を落とし大統領になった候補者はいない。特に共和党ではゼロで、トランプ氏も前回は8ポイント差で勝利したが、今回は支持率で0・6ポイントバイデン氏にリードされている。
 このためトランプ氏はバイデン氏のエネルギー政策は雇用を破壊すると主張。「バイデン氏はフラッキングを禁止するつもりだ」などと攻撃を強めている。
 バイデン氏は公用地での新規フラッキングを除き禁止しないと主張しているが、原油などの輸送を手掛けるゴーディ・ディアーさん(59)は「当選のために言っているだけ。民主党の大統領になれば、この地域と産業は大打撃を受ける。トランプ氏は規制を削減しわれわれを助けてくれた」とトランプ氏を支持する。

◆高まる環境問題への関心

 ただ州全体では環境問題への関心は高い。ジョージメイソン大学の昨年10月の州内の調査では、再生可能エネルギー開発を化石燃料などよりも優先すべきだとの答えが63%に上った。
 シェール開発には、環境破壊の指摘もある。フラッキングで使う化学物質による地下水汚染や汚染物質の処理問題、井戸から漏れる有害物質による大気汚染などだ。

ジル・ハンクラーさん(右)とユーリ・ゴルビーさん。奥がシェール井戸の一つ=米中西部オハイオ州ベルモント郡で

 ベルモント郡のジル・ハンクラーさん(45)は自宅近くに多数のシェール井戸が掘られて以降、自身や家族が頭痛、吐き気、体の痛みなど体調に異変が起き、4年持たずに自宅を売却しなければならなかった。
 地域のあちこちに井戸ができ、汚水や物資を運ぶ大型車両が狭い道を行き交い、静かな地方の様子は一変した。
 ハンクラーさんとパートナーのユーリ・ゴルビーさん(54)は、バイデン氏の政策は経済を維持しながらエネルギー源を転換させることができると支持。「トランプ氏は環境にとって最悪の大統領だ。人々を大きな危険にさらしている。再生可能エネルギーを増やす以外に選択肢はない」と強調した。

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