古書店生まれのバンドだぜ! 「ザ・リーサルウェポンズ」メジャーデビュー
2020年10月20日 07時05分
古本からど派手なTシャツまで個性的な商品が並ぶ中野区の古書店「ブックマート都立家政店」。ただならぬ雰囲気の店に引き寄せられたユニットが8月、メジャーデビューした。「ザ・リーサルウェポンズ」、略してポンズ。80年代を意識した世界観と中毒性のある楽曲に、脳内を侵食される人が続出している。
ポンズは、作詞作曲からミュージックビデオ(MV)までユニットのすべてを手がける覆面プロデューサー、アイキッドさんと、サングラスに赤いバンダナ姿の米国人ボーカル、サイボーグジョーさんの二人組。
楽曲のほとんどはアイキッドさんの体験がベース。必殺技を出すのに苦労した格闘ゲームや苦痛だった長時間労働などをコミカルでエッジの効いた歌詞へと落とし込む。ジョーさんは圧倒的なハイテンションと、ボーカルに不可欠なインパクトが魅力。ユーチューブで配信するMVのコメント欄は「天才にしか書けない歌詞」「耳に残りすぎる」と絶賛の言葉が並ぶ。
二人の異才を結び付けたのが、ブックマート都立家政店の店長河村陽介さん(43)だ。
人気アイドル「ももいろクローバーZ」に楽曲提供するなどしていたアイキッドさんは二〇一四年秋、多忙な日々に嫌気がさし、仕事を辞めて中野区へ転居した。ある日、近所の飲み屋で流れたヘビーメタルバンドの曲をきっかけに、居合わせた河村さんと知り合った。その日はそのまま別れたが一年後、河村さんの店に突然、アイキッドさんが訪れた。手にはびしょぬれの文芸雑誌。「拾った本を売りに来た」と言い放つアイキッドさんに「買い取れるはずないだろ」とツッコむ河村さん。二人は飲み友達となった。
ジョーさんは、この数カ月前に米国から中野区に転居した。ある日、散歩中に道に迷い、偶然見つけたのが河村さんの店だった。日本のパンクロックが好きだったジョーさんは河村さんとすぐに打ち解けた。
同時期に二人と仲良くなった河村さんは一五年十二月、店のPRソングの制作をアイキッドさんに依頼。ボーカルにジョーさんを抜てきし、近所の知人らを動員して翌年二月にMVを撮影した。
主に店名を連呼するシンプルな曲をジョーさんがおもちゃの銃を片手に絶叫。ほかの出演者の絶妙な素人ぶりもB級感をかもし、インパクト大なMVが完成。「想像の斜め上を行くおもしろさ」と河村さんは大満足だった。
一方、アイキッドさんはジョーさんにパフォーマーとして大きな可能性を感じたが、何しろ日本語がほぼ話せない。歌詞の意味も理解していなかった。
それから一年後。ジョーさんの日本語が飛躍的に上達し、ポンズを結成。アイキッドさんは二年間ひたすら楽曲とMVの制作に没頭し、一九年一月、ユーチューブで「八〇年代アクションスター」を発表。スタローン、シュワルツェネッガーらのトリビアを歌った笑いを誘う一曲だ。
以来続けざまにMVを配信し、じわじわとファンを獲得。ユーチューブの総再生回数は八百四十万回を超え、昨年五月に行った五十人限定の初ライブは即完売。十社程度からデビューの話が舞い込み、八月にソニー・ミュージックレーベルズからメジャーデビューした。
デビュー後も三カ月連続で新曲を発表中のポンズ。「店のMVを作った時、二人をもっと知ってもらいたいと思った。ポンズの世界をさらに広めてほしい」と願う河村さん。二人の勢いは止まらない。
文・西川正志/写真・松崎浩一
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