<視点 見張り塔から メディアの今>政権との関係 オフレコ取材偏重から脱却を ジャーナリスト・津田大介さん

2020年10月20日 07時56分
 七年八カ月続いた安倍政権から菅政権に代わり、政権とメディアの関係がクローズアップされる機会が増えている。とりわけ、メディアへの統制を強める菅首相が十月三日、内閣記者会の記者たちとパンケーキ店で行ったオフレコの懇談会は、それに参加するマスメディアに対して多くの批判が寄せられた。
 政治報道の現場では、記者は取材対象に「食い込む」ことが求められる。政治家ら取材対象と親密な関係を築き、情報をオフレコで取ってくるということだ。そうした取材によって得られた情報が「党幹部によると…」といった匿名で報道される。公益に適(かな)う情報が得られることもあるが、同時に危険性もはらむ。取材対象に都合の良い情報を吹き込まれたり、関係性を損ねるような報道をしづらくもなることも起こりうる。オフレコの非公式な「懇談」に依存すれば、権力者の匿名発言を助長し、記者会見の形骸化を招くことにもなりかねない。
 女性記者のキャリアを阻む可能性もはらんでいる。取材対象との関係構築のために必然的に長時間労働を強いられるが、家事や育児、介護を押し付けられている女性にはあまりにも負担が大きい。取材対象からのセクシュアルハラスメントも横行する一方、財務事務次官によるセクハラ問題に見られたように、被害を訴えても所属報道機関が守ってくれるわけでもない。出世コースとも言われる政治部記者として女性が活躍できないのであれば、一割に満たない新聞・通信社の女性管理職比率の改善も難しいだろう。
 最大の問題は、メディア組織自体が取材対象との親密な関係構築を記者に求めていることだ。「食い込んでこそ一人前」といった職業文化はいまだ根強い。記者会見という公の場で説明責任を果たさせることよりも、オフレコ取材が重視され、評価される。その結果、市民の知る権利を保障する場であるはずの記者会見が、緊張感のない予定調和になってしまうのであれば、誰のためのメディアなのか。
 心強いことに、こうした取材慣行を見直すよう求める動きがメディア内部から出てきている。賭けマージャン問題をきっかけに識者やジャーナリスト、新聞記者らがまとめた「ジャーナリズム信頼回復のための6つの提言」では、オフレコ取材に偏重する慣行・文化がメディア不信を招いていると指摘した上で、報道機関に、権力と一線を画して記者会見などで責任ある発言を求めること、取材・編集手法に関する報道倫理ガイドラインの制定・公開、多様性のある言論・表現空間の実現を目指すことなどを求めている。百人を超す現役記者から賛同が集まり、特に若手記者、女性記者が目立つという。これからのメディアを担う記者たちが危機感を強めているということなのだろう。
 提言は百二十九社の編集局長・報道局長に送付され、九月十四日には日本新聞協会に提出された。提言にどう応えるのか。メディア業界全体が問われている。(隔月掲載)

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