放射能汚染水 安全対策は万全なのか

2020年10月21日 06時49分
 東京電力福島第一原発の放射能汚染水。政府は「もう先送りできない」と海洋放出に踏み切る方向だ。だからといって、安全や風評被害対策を先送りしていい理由にはならない。 
 福島第一原発の敷地の中には、千基のタンクがひしめき合って立ち並ぶ。中身は構内で発生した放射能汚染水。その量は百二十三万立方メートル。東京ドーム一杯分に相当する量だ。
 地下水のくみ上げや凍土壁の設置によって、発生量は、五年前の四割弱にまで減った。それでも一日平均約百八十トンの割合で増えており、再来年には、敷地内にタンクを増設する場所がなくなってしまうという。最新の多核種除去設備(ALPS)を使っても、水にそっくりのトリチウム(三重水素)は取り除くことが難しい。ほかにも残るものがある。
 とはいうものの、今のままでは廃炉作業に支障を来す。そこで、国が定めた排出時の濃度基準(告示濃度)を下回るまで海水で希釈して、タンクの中身を海に流すというのである。
 トリチウムは、通常運転の原発から出る排水にも含まれており、基準値以下の濃度に薄めて海に放出することは、国際的にも認められてはいる。
 ところが放射能汚染水の海洋放出に関して、法令は排出時の濃度規制をしているだけで、総量規制はしていない。「拡散させれば大丈夫」という考え方に立っており、薄めれば、いくらでも海に流せることになる。
 トリチウムの放射線は微弱だが、ゼロではない。メルトダウン(炉心溶融)した原発からの処理水を長期にわたって海へ流し続けた場合の影響は、未知数だ。
 時代が違うとはいえ、海水の希釈能力を過信し、有機水銀を含む化学工場の排水を海に流し続けた結果が、水俣病ではなかったか。
 福島では今年二月、全魚種の出荷制限が解除されたばかり。今以上に深刻な風評被害を漁業者が恐れるのは当然であり、心中察するにあまりある。海を分かち合う他国の反応も気掛かりだ。
 核のごみ同様、汚染水の処分は必要だ。
 だが放射性物質を完全に取り除く技術がない以上、やむを得ず海洋放出に至るにしても、管理と監視のルールを整え、風評被害防止の具体策を示してからではないのだろうか。
 拙速は、将来に深く禍根を残すことになる。

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