埼玉県内で介護疲れ殺人相次ぐ 「迷惑かけたくない」 支援拒否→孤立も

2020年10月22日 07時24分

さいたま地裁では9月以降、介護絡みの家族間での殺人事件3件で実刑判決が言い渡された

 家族の介護を一人で背負う介護者が、要介護の妻や夫、子どもを傷付けたり、最悪の場合は殺害してしまう事件が県内でも後を絶たない。こうした事件では、介護者が「迷惑をかけたくない」などの理由で周囲からの支援を受けていないケースも見られる。新型コロナウイルスの感染拡大で孤立する介護者が増えることも懸念され、専門家は家族介護を支援する法整備が必要だと指摘する。 (杉原雄介)
 「今でも息子と家内を愛している」。九月二十九日にさいたま地裁であった裁判。昨年一月、ともに統合失調症を患う長男=当時(31)=を殺害し、六十代の妻も殺そうとしたとして、殺人と殺人未遂の罪に問われたさいたま市の無職男性(69)=懲役四年が確定=は、最終陳述で声を震わせながら二人への思いを絞りだした。
 男性は法廷で、長年にわたり長男と妻を世話する中、「一緒に死んでほしい」との思いが突発的に浮かんで犯行に及んだと説明。判決では事件当時、男性も重度のうつ病を発症していたことが認定された。二人の世話を「自分でやらなければという責任感」から、親族からの支援の申し出を断ったこともあるという。一家に行政の支援があったかについては、さいたま市の担当者は「個人情報なので答えられない」としている。

◆コロナで状況悪化

 同地裁では九月にも、羽生市の自宅で三月に夫=当時(72)=を殺害した無職女性(71)=懲役三年が確定=の裁判があった。女性は被告人質問などで、皮膚病を患う夫を一人で世話し、将来を悲観して殺害に至ったと説明。別居の娘二人には「絶対に迷惑をかけたくない」として、助けを求めることはなかったという。
 県によると、二〇一八年度に家族などから虐待を受けたとみられる高齢者は六百十六人で、うち58%は要支援や介護認定を受けていた。一方、虐待者は年齢が判明している五百八十二人のうち、高齢者が百八十二人と三割以上を占め、老老介護の中で虐待が起きていることがうかがわれる。
 高齢介護者の孤立について、県福祉部の担当者は「他者との交流を避けたり、介護認定の申請を恥ずかしがるなどの理由で、行政や周囲からの支援を拒否する人は一定数いる」と指摘。行政が把握できていないケースもあり、担当者は「県内は移住者が多いことや、核家族世帯の増加で地域のつながりが希薄になっている。地域の人が声かけや見守りをするのが望ましいが、難しい状況だ」と課題を口にする。
 さらに、コロナ禍による状況の悪化も懸念される。さいたま市は従来、二十七カ所の地域包括支援センターの職員が高齢者世帯を定期的に訪れ、生活状況などを確認してきたが、新型コロナの感染拡大後は電話での対応が中心となっている。
 市いきいき長寿推進課の担当者は「高齢者が対面を避ける傾向が強まっている。家にこもりがちになると心身への悪影響も考えられるが、電話だけだと状態が把握しにくい」と頭を悩ませる。さいたま市の男性や羽生市の女性の事件は、コロナ禍が本格化する前に起きており、取り巻く状況はより深刻化している可能性がある。

◆法のサポートを

 高齢者介護政策が専門の岡村裕教授(杏林大)は「国は介護離職対策などを優先しているが、介護殺人や心中も増えており対策が必要」と指摘する。本来は介護サービスの充実が望ましいが、介護人材の不足などから家族介護に頼らざるを得ないとした上で、「家族介護を支援する法律は現状では存在しない。経済的負担の軽減や家族介護者をケアする支援法をつくり、周囲から孤立した介護者の存在を把握する取り組みに予算を充てる必要があるのでは」と提起した。

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