コロナで止まった国際貢献 夢の再開はいつ? 青年海外協力隊の複雑な思い

2020年11月11日 18時50分
世界中でボランティア活動を行っている国際協力機構(JICA)の青年・シニア海外協力隊員の活動が、新型コロナウイルス感染拡大のために止まっている。今年76カ国で活動していた2044人全員が、4月末までに帰国した。感染が収まったベトナムのみ12月以降の活動再開に向けた準備が始まり、タイ、カンボジアは検討に入ったが、他の国はめどが立っていない。長期化で待機者は半減、志半ばで帰国し、再び現地に行くことを希望する隊員も複雑な思いを抱いている。(竹村和佳子)

日本の中学生とのオンライン交流会で、興味深く画面をのぞき込むガーナの高校生たち。手前右が小田さん=写真はすべて小田佳世子さん提供

◆「いつか海外に住みたい」夢は叶えたけど…

 「また行きたいという気持ちと、もういいか、という気持ちの間で日々揺れている」
 昨年7月末から約8カ月間、青年海外協力隊員としてアフリカのガーナに赴任した東京都町田市立堺中学の教員、小田佳世子さん(37)は、現在の心境をこう明かした。
 子どもの頃から茶道をたしなんでおり、日本文化への興味から海外に目が向き、大学は国際文化交流学部で学んだ。「いつかは海外に住んでみたい」と考えてきた。そんな小田さんにとって役立ったのは、教員の身分を保持したまま2年間青年海外協力隊に参加できる「現職教員特別参加制度」があったことだ。
 114種ある職種の中に専門の「国語教師」がなく、資格がいらずに自分の将来にも役立ちそうな「PC(パソコン)インストラクター」を選択。3カ月の国内研修を経て、昨年7月末から来年春までの予定でガーナに赴任した。

小学校にあったパソコンは1台を除いてすべて壊れていた。かなり旧式

◆日本とガーナの生徒たちをオンラインで繋ぐ

 任地は、ガーナの首都アクラから車で6時間半のニューアビレムという小さな町。近隣の小中学生にパソコンの操作を教えるはずだった。だが、活動拠点となる教育センターのパソコンは20台すべてが故障していた。「カバーを開けてたまったほこりを除くだけで動いたものもあったが、故障原因を調べて部品を発注するぐらいしかできなかった」と、当初の任務は消化不良だった。
 それでも、逆に「活動の場を広げられるかも」と前向きに捉えて、近隣の学校を回り、授業を見学した。茶道や書道など日本文化を紹介したり、堺中の教え子たちとガーナの高校生をオンラインでつなぐ文化交流イベントも実行したりした。生徒たちには毎月「ガーナ便り」を送って異文化を紹介した。

小田さんが堺中の教え子たちに毎月送っていた「ガーナだより」。衣食住など異文化を紹介

 だがそんな時だった。新型コロナウイルスの拡大を受けて、JICAから全世界の青年・シニア海外協力隊員に帰国命令が出た。JICAによれば、任期中に隊員を引き上げたことは過去にも数度あるが、いずれも国単位で、理由は主に治安の悪化やテロ。世界一斉の帰国は1965年の派遣開始以降で初めてのことだ。

◆見知らぬ人から大声で「コロナ!」と…

 3月18日に帰国指令を受けた小田さんは、出国のために首都アクラに到着すると「市場で見知らぬ人から『コロナ!』って大声で呼ばれ、怖かった」と語る。一緒に隊員として赴任していた友人は、中国人と間違われて「中国に帰れ」と言われたり、バスに乗車拒否されたりしたという。
 「住んでいた街は田舎で顔見知りばかりだったので、それまでは怖さはあまり感じていなかったが、首都はピリピリしていた」。緊張の中、19時間かけ21日深夜に成田空港に到着した。隔離のために東京都内のJICAの施設に着くと「部屋から桜が見えて久しぶりにお風呂に入ったら、帰国したんだとようやく実感しました」と振り返った。

◆再派遣の特別登録したけど…メド立たず中ぶらりん

 新型コロナウイルスによる全員途中帰国という異例の事態受け、JICAは隊員に対し、3年以内にチャンスがあればもう一度新規で2年間派遣されるという「特別登録制度」を新しく設けた。小田さんは「選択肢を残したかった」と登録し、8月から中学教師に復職した。

熱心に書道に取り組むガーナの高校生たち

 「帰国する時には、夏にはコロナが収束して戻れるだろうと思っていた。お世話になった方たちにちゃんとあいさつできなかったことが心残り」と小田さん。途中で途切れた夢を再び実現したいという気持ちの一方で、今後の見通しがなく、中ぶらりんとした心境だ。
 それでも、帰国後には生徒から「フフ(ガーナの国民食と紹介した餅のようなもの)を食べてみたい」「実際に世界を見てみたくなった」といった感想をもらった。生徒たちが視野を広げてくれたことに「少しモヤモヤが昇華された」と話す。
 「職場や自分のライフプランを考えると、『絶対行く!』とは言えないが、またガーナに行きたい思いはある。次に行けたらもっとできることがある」とコロナが収束する日を待って、決断しようと考えている。

◆帰国即除隊した人、国内ボランティアで待機中の人も

 一方、小田さんと違った道を選んだ人もいる。東ティモールでマーケティング指導をしてきた都内在住の会社員・東盛ひがしもり健一さん(41)は帰国後に除隊し、元の職場に復職した。「長引きそうだと思い、帰国する時点で除隊を決めた。こういう時なので、国の税金でボランティアのために待機するより、自分で稼いで納税した方がいいと思った」と決断。「いずれ機会があればまた別の国に参加したい」と気持ちを切り替えている。
 アフリカのルワンダに行っていた静岡市在住の石川遙さん(28)は、大学院を修了したタイミングで協力隊に参加。途中で帰国した現在も隊員として、JICAが手掛ける静岡県掛川市のキウイ農園で住み込みボランティアを行いながら待機している。だが、「来春の任期満了までに再開される可能性は低いと思う。今回は残念だが、ルワンダやケニアを対象にプログラミング教育をしている企業のアルバイトをさせてもらうことが決まった。JICA以外でも国際貢献の方法はある」と話し、特別登録はしなかった。
 JICAは10月中、活動再開についての見通しを各隊員に告げたが、アジアの数カ国以外は見通しが立たない状況だ。9月上旬に約1400人いた待機者は約720人まで減った。小田さんのように特別登録したのは524人で、新規募集は止まったまま。JICAは「早く再開させたい気持ちはあるが、隊員の安全が最優先。送り先の医療体制を考えると判断が難しい」と頭を悩ませている。

◆マスク着用違反の罰金25万円!? 世界のコロナ事情


 世界に散っていた隊員から、各地のコロナの状況を聴くと、任地は発展途上国が多いため、医療環境の脆弱さなどから国境封鎖や外出禁止などの措置は日本より対応は迅速で厳しかったという。感染者の住所や顔・家の写真がネット上でさらされた国がいくつもあり、小田さんのようにアジア人というだけで「コロナ!」と呼ばれた経験は、ほとんどの隊員が経験したようだ。
 コロナが発生した中国では隊員が1月中に帰国。次いで早かったモンゴルに派遣されていた教員の山下義明さん(41)は3月16日に帰国した。中国と国境を接しており、過去に感染症でヒツジなど家畜に大きな被害が出た経験から、国境封鎖、国内移動禁止が急に決まった。「1月27日に生徒を帰宅させた後、急きょ一斉休校になって、翌週から9月1日までオンライン授業のみ。国で時間割を決めてテレビで授業が放送されていた。モンゴルで、できていることがなんで日本でできないんだろうと思った」という。
 中米のベリーズに派遣された20代千葉県在住の女性によると、3月末に帰国した時点では国内感染者はゼロ。マスクをした人は見なかったというが、4~6月末に非常事態宣言が出されて取り締まりが強化された。「その後マスクが義務化され、違反者は5000ベリーズドル、日本円で約25万円も罰金を取られるのだそうです。外食はテークアウトのみ、集会は冠婚葬祭以外禁止。医療態勢が弱いため、ウィズコロナはあり得ないという考えのようです」などと、さまざまなお国事情が聞かれた。

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