生きづらさを抱える大人たちのフリースクール「雫穿大学」開校 「引きこもりの人に再起の場を」

2020年10月23日 11時50分

ウェブ講座でプログラミングを学ぶ学生たち=20日、東京都新宿区で(大西隆撮影)

 80代の親が50代の子を支える「8050問題」が心配される引きこもりをはじめ、生きづらさを抱える大人たちがマイペースで働き方、生き方を模索できる学び場「雫穿てきせん大学」が今月、東京都新宿区内の一角に誕生した。フリースクールで実践研究に長く携わった社会学者朝倉景樹さん(54)と、引きこもりや不登校を経験した若者たちが立ち上げた。12月のNPO法人化を目指す。(大西隆、写真も)
 「雫穿」は学生たちが話し合いで決めた造語。「水のしずくが岩に穴をあけるように、閉塞へいそく感を打ち破りたい」との思いを込めた。

朝倉景樹さん

 朝倉さんは、不登校の子らが通うフリースクールの草分け的存在のNPO法人東京シューレ(東京都北区)に30年近く勤めた。1999年に18歳以上の部門「シューレ大学」の創設にかかわり、実践研究に20年余を注いだ。今年9月、深刻化する中高年層の引きこもりの人たちの学びも視野に入れ、20~40代の学生約30人と共に独立、大人向けのフリースクールとして雫穿大学を開いた。
 不登校の小中学生は近年増加が目立ち、今では18万人を超えるが、4年前に学校外の多様な学び場を保障する教育機会確保法ができ、社会的自立を後押しする方策が講じられてきた。他方、推計115万人を上回る15~64歳の引きこもりは「甘え」「犯罪者予備軍」などと偏見を持たれ、孤立しがちだ。
 「生きづらさを抱える人は『自分はだめな人間』という自己否定感にさいなまれている。『訓練しなさい』『働きなさい』と迫る就労一辺倒の支援策ではかえって重圧となり、有効ではない」。一足飛びに社会復帰を頑張るのではなく、まずは自分にふさわしい働き方や生き方を模索する作業が重要という考えだ。
 大学の役割は大きく2つ。学生が自己否定感や人の怖さから解放され、自分の価値観を築くこと。自分の関心を見つけて仕事への道筋をつけること。
 社会学や生命論、デザイン、学歴社会・不登校などの講座や、映像、演劇などのプロジェクトがある。学生は講師の助言を得て、自らの関心に従って探究計画を立て、実行する。NPOや企業の協力を仰ぎ、関心ある分野での就業体験や起業支援の機会も設ける。
 小学6年でのいじめをきっかけに中学時代から約10年間、引きこもったという学生の荻野鉄夫さん(34)。「かつて孤独感に苦しみ、死にたいと思っていた。20代で前身の大学に入り、孤独感を研究して発表した。皆が自分事として考えてくれた。異なる視点があることを知り、今は他人と自分を昔ほど比べなくなった。自分なりのペースで仕事を見つけたい」と語る。
 キャンパスはJR高田馬場駅から徒歩約10分のビルの一室。18歳から入学でき在籍年限はない。学費は年間約60万円。学位は得られない。環境整備や学費軽減を目的にクラウドファンディングでの支援を求めている。朝倉さんは「引きこもりの人を落後者として排除する風潮は問題だ。納税者として再起できる学びを広げたい」と言う。
 問い合わせは同大=電03(6205)6079。

◆自己肯定の機会に

 雫穿大学アドバイザーの文化人類学者・ゲイアクティビスト砂川秀樹さんの話 大学で学生は「自分研究」をする。自分の経験を振り返り考察することで、自分の問題に向き合い、ときほぐすものだ。学生は大学運営にも参加する。組織運営の経験になると同時に、自分の声が聞かれることによる自己肯定の機会になるだろう。生きづらさを抱えてきた人が、社会との折り合いをつける方法を学べる場だ。

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