日本秋景ピエール・ロチの日本印象記 ピエール・ロチ著

2020年10月25日 07時00分

◆明治日本の変貌 現代に問う
[評]新保祐司(文芸批評家)

 フランスの海軍士官であり作家でもあったピエール・ロチが、一八八五(明治十八)年に日本の各地を旅した紀行文である。京都、鎌倉、泉岳寺などであり、鹿鳴館での舞踏会に出席したことや赤坂仮皇居での観菊の宴に招かれたことも書かれている。
 ロチは、『お菊さん』などによって日本の読者にも知られている。この『日本秋景』がフランスで出版された八九(同二十二)年には、当時のフランスにおけるジャポニスムの流行の波にのってベスト・セラーになったという。
 明治時代に来日した外国人が書いた日本についての著述は、ハーン(小泉八雲)、ベルツ、モースのものなど多くあるが、それらが今日も読まれる所以(ゆえん)は、日本とは何かを振り返らせるからである。
 ロチの本書も、そのような意義を持っていると思う。もちろん当時のフランス人に向けて執筆したのだが、鹿鳴館を題材にした第二章「江戸の舞踏会」の中で、「驚異的な速さで変貌を遂げてゆくあの国にあっては、数年もたてば、日本の人たち自身もここにその進化発展のひと段階が書き付けられているのを見て、楽しんでくれることだろう」と書いているからである。
 しかし、「数年」ではなく、すでに百三十年の時がたった今日の日本に生きている日本人にとって、ロチが本書で描き出している明治中期の日本の姿は、果たして乗り越えた「ひと段階」として「楽し」めるであろうか。それとも、いまだに続くものとして苦い認識をもたらすであろうか。戦前にも既に翻訳された本書が改めて出版されることの意義は、この問いを令和の日本人に考えさせるからである。
 この紀行文の中には、日本および日本人に対するロチの冷徹な批判の言葉が、折に触れ、書きこまれている。それは、「さあ、着いた。横浜だ。大いなる近代のガラクタ山、古きものの残滓(ざんし)にのっかった、にわかづくりの新しき日本である」という言葉に集約されるであろう。ロチが、蘇(よみがえ)ってまた来日したとしても、現在の日本に対してやはり同じ感慨を抱くのではないか。
(市川裕見子訳、中央公論新社 ・ 2530円)
1850年生まれ。仏海軍士官として世界各地に赴任。著書『アフリカ騎兵』など。

◆もう1冊

渡辺京二著『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー)

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