科学や食 多彩な視点『とうがらしの世界』 信州大准教授・松島憲一さん(53) 

2020年10月25日 07時00分
 まずはクイズ。国内で最高峰の国立大学はどこ?
 「試験が一番難しい大学なら」「ノーベル賞の受賞者数では」と、いろんな答えがありそうだが、地理学でいくと答えは明快だ。
 信州大の農学部。中央アルプスと南アルプスの間、緑の豊かな長野県南箕輪村にあり、標高は七七三メートルにもなるという。なるほど。
 もちろん学術的な水準も高く、全国から学生が集まる。大阪市出身の松島さんもその一人だったのだが、「学生には言いにくいのですけれど、スキー部に入ってスキーばかりしていて、研究室にはあまり行かない不良学生でした」。
 そのためだろうか。信州にある大学だけに、研究室は主にソバを研究の対象としていたが、その“主流”から外れたトウガラシをやるよう勧められた。「研究室はフィールドとしているネパールのソバの遺伝資源(将来の研究や品種改良に使う在来品種などの種子)を集めていましたが、トウガラシの種子も集めていました。そちらは誰もやっていなくて、ぼくがやることになりました。でもやってみると、トウガラシはバラエティーに富んでいて、おもしろかったんですね」
 それが今日まで続くトウガラシ研究のきっかけ。同大で大学院を修了すると、農林水産省に入るが、行政職としての採用だった。
 「研究職を希望したんですが『おまえは人当たりがいいから』と…。研究がしたいと思いながら、役人として九年半働きました」
 もっともそのうち二年は農業試験場に勤務。農学博士号もその際のイネの研究で取得した。そして縁あってまた母校へ。人生、何が幸いするかわからない、とつくづく思わされるユニークな研究者だ。
 「研究者としては出遅れましたが、無駄な時間だったとは思いません。文系、理系を問わず、幅広い視野を取れるようになったのではと」。そうした知見や経験を注ぎこみ、五年がかりで書いたのが本書だ。
 中南米原産ながら、コロンブスが持ち帰るとまたたくまに世界に広まった魅惑の香辛料トウガラシ。その歴史や植物としての特性などを、科学や食文化といった多彩な視点から伝える。
 ブータンで少年が食べていたトウガラシをかじり、あまりの辛さに涙した不覚の体験など、読んで楽しい記述も多い。冒頭のクイズも本書が出元だ。読書の秋と食欲の秋、どちらにもお勧め。講談社選書メチエ・一八七〇円。 (三品信)

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