ノーベル賞の条件

2020年10月26日 07時13分
 ノーベル賞は世界的な業績がないともらえない。しかしもう一つ、絶対に必要な条件がある。生存していることである。
 一昨年、業績では確実に該当する日本人が亡くなった。石坂公成さん、九十二歳だった。戦後まもなく米国に渡り、アレルギーの原因物質であるIgEを発見した。
 渡米前、陸軍の将官だった父・弘毅さんは病床にあった。「おまえがアメリカに留学するのは軍人の出征と同じだ。おれが死んでも帰ってくるな」と言われたという。
 留学後に在籍したのはコロラド州の小さな研究所だ。予算も人員も限られる中、抽出した成分にアレルギーを起こす物質が含まれるかどうか、自分の体に接種して皮膚の反応を試した。共同研究者である妻照子さんも同様だ。画期的な論文に掲載されたのは、弟子の背中だった。公成さんの背中はあまりに注射の痕が多くて使えなかったのだ。
 晩年帰国すると照子さんの故郷・山形市に住んだ。照子さんは脳の病気で入院し、ずっと昏睡(こんすい)状態。病室が公成さんの仕事場になった。そんな「ラスト・サムライ」に数年前、ベッドサイドでお話を伺った。時をさかのぼり歴史上の人物に会ってきたような感覚だった。ノーベル賞をなかなかもらえなかった理由として「夫妻同時の受賞を譲らなかったから」という説もある。照子さんも後を追うように、昨年亡くなった。 (吉田薫)

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