<10月の窓>おじさんが見せてくれた東京五輪

2020年10月27日 06時00分
 おじさんがドアを開けてくれる。のぞくと意外に薄暗く、静か。選手がバーベルを持ち上げると、一気に歓声が湧き上がった―。
 東京都新宿区の無職伏見いづみさん(61)の脳裏には、1964年の東京五輪の思い出が焼きついている。
 実は入場券はなかった。5歳年上の姉と一緒に、母ふみゑさん(98)に連れられて出掛けた先が、渋谷公会堂(現LINE CUBE SHIBUYA)。重量挙げの会場だった=写真。入り口に着くと母がしばらく交渉。いづみさんは「『一生、こういうものは見られない。子どもの思い出に』とでも言ったのでは」と想像する。
 ドアの前にいたおじさんは「絶対に、声を出すんじゃないよ」と言って、遠目だけど、こっそり見せてくれた。おかげで五輪のことを思うと、今もそのシーンがよみがえる。「やっぱり、生の感動は心に残るんですね」といづみさん。
 今年開催予定だった東京大会では、自宅近くを走るマラソンを母と観戦するつもりだった。しかし、暑さ対策のため、コースは札幌市に変更。さらに新型コロナウイルスの影響で、大会は来年に延期された。
 いづみさんは「開催費用も増えるようだし、コロナは収まらないし…。開催するにしても、どうなるかしら」と気をもむ。比べてみれば、のどかな思い出をつくってくれた前回の東京大会。開かれたのは、56年前の10月だった。(梅野光春)

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