「福島の漁業」復活か、後戻りか 原発事故から9年半

2020年10月27日 19時26分
東京電力福島第一原発事故で大打撃を受けた福島県の漁業は、出漁日などを制限する試験操業が今も続く。漁獲量は少ないものの、東京での市況を見ると、主な県産魚の評価が高まっている。改善傾向が見えてきたところで原発の汚染処理水の海洋放出方針決定が現実味を帯び、漁業関係者は新たな風評被害が起きることを強く懸念している。(小野沢健太、山川剛史)

水揚げされたばかりのヒラメやスズキ、メバルなどが次々と競りにかけられていく=10月19日朝、福島県浪江町の請戸漁港で

原発の北約6キロ、浪江町の請戸(うけど)漁港。10月19日朝、ヒラメやスズキ、メバルなどが水揚げされ、仲買人らが慌ただしくケースに並べていった。がらんとした卸売市場の一角であった魚の競りは、20分ほどで終わった。漁港は復旧に時間がかかり、競りは今春に再開したばかり。周辺は空き地が広がり、民家はない。

◆「常磐もの」ヒラメは価格も取引量も回復

福島沖の沿岸漁業の水揚げ量は、2019年で事故前の2割に満たない。事故当初は海産物から食品基準を超える放射性物質が検出されたが、15年度以降は1件のみに。今年2月には、全ての魚介類について国の出荷制限が解除された。年5000件ほどの放射能検査を続ける中で、福島県漁連は21年4月の本格操業を目指している。
主な出荷先である東京都中央卸売市場の取引状況によると、「常磐(じょうばん)もの」として知られる福島県産のヒラメは、原発事故前の価格から一時は7割も落ち込んだが、価格も取引量も事故前の水準まで回復した。カレイ類も価格が半減したが、今では全国平均を上回るまでになった。ただ取引量は事故前の2割ほどにとどまる。コウナゴは事故後も全国の平均価格をほぼ上回り、高評価を維持している。

津波被害から復旧した請戸漁港。左奥には事故収束作業が続く東京電力福島第一原発の排気筒が見える=福島県浪江町で

◆不安と懸念 汚染処理水の「海洋放出」

「請戸漁港から地魚を仕入れる日は、仙台市など県外からも買い物客が来るようになった」。南相馬市で鮮魚店を営む谷地茂一さん(72)は、確かな変化を感じ取っている。それでも、原発から汚染処理水が放出されることに懸念が消えない。「10年かけてやっと風評被害が薄れ始めたのに、また後戻りになるのかぁ」

大物のカツオをさばく鮮魚店の谷地茂一さん=福島県南相馬市で

請戸から北40キロ、相馬市の松川浦漁港も訪ねた。原発事故前は、ヒラメやタコなどでは全国有数の水揚げ漁港だった。船の手入れをしていた40代の男性漁師は「仲買人が漁師から買い取る価格は、事故前に比べるとまだ安い。本格操業して漁獲量が増えたら、もっと買いたたかれるかも。ましてや、原発から海に水を流されたら目も当てられねぇ」と声を落とした。

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