<スポーツ探偵>原宿に咲いたなでしこ 日本初の女子サッカークラブチーム「FCジンナン」

2020年10月28日 07時10分

第1回全日本女子サッカー選手権で優勝したFCジンナン(1980年3月撮影)。後列左端が岩田明美さん。8人制、25分ハーフで行われた

 若者とファッションの街・原宿エリアにある渋谷区神南。かつてこの地名を冠した女子サッカーチームが存在した。「FCジンナン」という。日本初の女子サッカークラブチームはどのように誕生したのか。なでしこたちの原点を探った。
 何事にも始まりがある。今では女子が普通にサッカーをする時代になったが、そのきっかけを作った伝説のチームがあった。
 一九七二年の雑誌「サッカー・マガジン」五月号に小さな募集記事が載った。女子のサッカーチームを結成したいので希望者は連絡下さい−。「それを見たサッカー好きの女子が各地から集まったんですね。最初は確か十数人で中学生から社会人までさまざま。私は短大に入ったばかりでした」。FCジンナン創設メンバーの一人、岩田明美さん(66)が話してくれた。
 名前の由来は当時の日本サッカー協会(JFA)が渋谷区神南の岸記念体育会館にあったから。募集記事を出した女性はJFAに勤務。男性職員が「FC神南」というサッカーチームをつくっており、女性だけのチームをつくりたくなったそうで、名前は片仮名で「FCジンナン」とした。
 おしゃれな街の名前を付けても、「当時、女性でサッカーをする人は変わり者扱いでした」と岩田さん。何しろ、女性だけのクラブチームは初めて。「本拠地どころか決まった練習場所もなく、普通の公園とか、多摩川や荒川の河川敷を使っていましたね。女性用の更衣室はないので、私は駅のトイレで着替えていました」。困ったのは試合相手。まともに取り合ってくれず、最初は男子小学生と戦って実戦感覚を磨いた。
 そんなFCジンナンが全国の注目を集めたのは、八〇年。第一回の全日本女子サッカー選手権大会(現皇后杯)で初代王者に輝いたのだ。「努力が報われたとうれしかった」。このころには各地で女子チームができ始め、女子同士で戦える環境に。岩田さんは初代の日本女子代表にも選ばれ、八一年のアジア女子選手権に参加。徐々に今のような形が作られていった。

同選手権で小雪が舞う中、プレーする選手たち。中央が岩田さん(いずれも岩田明美さん提供)

 結成から十年目の八一年には、現なでしこジャパンの高倉麻子監督(52)が入団した。「私は中学一年生で、お姉さんたちにかわいがってもらいました。皆さん個性的で東大生や警察官の方もいました」。福島在住だった高倉監督は週末になると三時間以上かけて上京。「日焼けしていたので何度も『家出少年』と間違われた」そうだ。

FCジンナン出身のなでしこジャパン高倉麻子監督

 それでも、楽しかった思い出しかないという。「女子がサッカーやるなんてといじめられた時代。FCジンナンでは分け隔てなくサッカーの話ができたんです。東大生の方が中一の私に『今のプレーどう思う?』って真剣に聞いてくるんですよ(笑)。皆、サッカーが大好きでした」
 残念ながら、FCジンナンは八六年に日産に引き取られた後、九四年に解散してしまうが、彼女たちのDNAは今の日本の女子サッカーにしっかりと根付いている。「困難があっても自分の好きなことに進んでいく熱量は、あのときから変わっていません。FCジンナンがなければ、今のなでしこジャパンはないと思います」。高倉さんは懐かしそうに笑った。     

◆袴で「フートボール」

1919年のものとみられる写真絵はがき(丸亀高校同窓会提供)

 では、日本の女子サッカーは、いつ始まったのか。諸説あるものの、少なくとも明治、大正時代には行われていた証拠が見つかっている。
 香川県立丸亀高校の元校長、馬場康弘氏(68)は同校の前身の一つである丸亀高等女学校の資料の中に1906(明治39)年4月から20年9月まで、サッカーボールを備品としていた記録を見つけた。また、袴(はかま)姿の女学生が校庭で元気にボールを蹴っている絵はがきも確認した。19(大正8)年のものとされている。
 馬場氏によると、当時はフットボールのことを「フートボール」と呼んでいたようで、「06(明治39)年の運動会のプログラムに『フートボール』の記述があります。同時期の女学生の日誌には、朝礼前や授業の合間にフートボールをしたと書かれています。昔の学生も日常的にサッカーを楽しんでいたんですね」
 なぜ、丸亀市で女子サッカーが行われたのかという疑問に馬場氏は「当時の校長がスポーツ好きだったことが一つ。また、最近の研究では丸亀だけでなく、今治や松山、大分など、全国で行われていたようです。これからいろいろと分かってくるのでは」と今後の解明に期待を寄せた。
 文・谷野哲郎
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