<東京パラリンピック マイ・ウェイ!>苦手の足技磨き武器に 視覚障害者柔道・永井崇匡(25)

2020年10月28日 12時38分

鈴木祐介さん(右)と打ち込み練習をする永井崇匡選手=東京・講道館で

 全く見えない世界で、的確に相手の足元を見極めるのは、どれほど難しいだろう。視覚障害者柔道男子73キロ級の東京パラリンピック代表に内定している永井崇匡は、新型コロナウイルスの感染拡大による東京大会延期を好機と捉え、苦手だった足技を徹底的に磨いて武器に変えつつある。「見違えるよう」と周囲が驚くほどの進化を遂げている。

◆相手の動き瞬時に感じ、機敏に動く

 10月上旬。講道館(東京都文京区)の柔道場で、練習パートナーの鈴木祐介さん(42)と組み合った。感染防止のため、実戦的な乱取りはせず、技の形を反復して確認する打ち込みを続ける。素早く相手の懐に潜り込む投げ技。小内刈りからの連絡技…。2歳で失明したとは思えないほど、相手の動きを瞬時に感じ取り、機敏に動き回る。「二手、三手先を用意して」。鈴木さんがげきを飛ばす。約30分後、あらゆる状況を想定した濃密な稽古が終わると、永井のマスクは汗でびっしょりぬれていた。
 自分から素早く仕掛けるスタイルは、2019年春に鈴木さんとタッグを組んでから確立した。以前は腕力頼みのともえ投げ一辺倒。弱視の選手とも同じ土俵で戦う中で、足技は「全盲だし、できなくて当然」と諦めていた。相手の身長や体格は道着をつかめば見当が付くが、下半身の動きまで把握するのは至難の業だからだ。

◆18年のアジアパラ大会では3位

 だが、それで勝てるほど世界は甘くなかった。国内では第一人者でも、18年アジアパラ大会では3位どまり。ともえ投げを掛けるタイミングを待つ受け身の柔道から脱却しなければ世界で通用しない。
 「変わりたい」
 その一心で鈴木さんの指導を受けた。攻めの姿勢を常に意識し、出稽古を重ねて積極的に相手の懐に潜り込む素早さも身に付けた。足技には今年に入ってから着手。コロナ禍で練習は制限されたが、手洗いを徹底して感染に気をつけながら、勤務先の学習院大などで、できる稽古を積んできた。「どう崩すか、いろいろ考えるようになって、面白くなってきた」。厚みを増した太ももを指さし、にっこり笑う。

◆来年なら9割くらいに持っていける

 足技の強化に本腰を入れ始め、「東京パラまでに仕上げられるだろうか」と焦りを覚えていた今年3月、大会延期が決まった。「もし今年だったら6、7割の完成度だったけど、来年だったら9割くらいには持っていける」と前向きに受け止める。
 年内の強化合宿や国内大会は中止となり、世界ランキングに影響するような国際大会も来春まで予定されていない。「技の見直しができた」と稽古での手応えは十分。「あとは実戦の緊張感の中でどれだけだせるか」。腕試しの機会は、まだ先になりそうだ。
 東京で初めてパラの舞台に挑む。「全盲の自分が勝てば、そういうこともできるんだとみんなに思ってもらえる」。目標とする金メダルまで「距離が縮まってきた」と自信がみなぎる。新たな柔道スタイルで、たどり着く。(兼村優希)
                       ◇
 ながい・たかまさ 1995年1月4日、群馬県中之条町生まれ。小学1年で柔道を始め、中学3年で視覚障害者柔道に転向した。男子73キロ級の世界ランキングで日本選手トップの14位。今年8月、東京パラ代表に内定した。学習院大職員。数学教師も目指している。

 視覚障害者柔道 弱視や全盲など見え方の異なる選手が障害の程度に関係なく、体重による階級別にのみ分かれて対戦する。互いの襟と袖を持った状態から始まるのが特徴。選手同士が離れたら、試合をいったん中断し、組み直して再開する。

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