<月刊 SDGs 創刊号>貧困問題と証券 つながる回路

2020年10月30日 08時22分
 目標1として掲げられているのが「貧困をなくそう」だ。残念ながら新型コロナウイルスの影響で貧困問題は深刻さを増している。
 「仕事も週1~2回に減りこの先どうすれば? 子どもたちにも今は1日2食で我慢してもらい、私は2日に1食が当たり前」
 NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむがシングルマザーを対象に実施した調査では悲痛な声が寄せられた。この女性には、同NPOが食料支援を始めたが、一時期は親子ともに体重が激減したという。
 調査では7割の世帯で収入や勤務日数などに影響があった。全国一斉休校でオンライン授業の導入が進むが、パソコンなど教育インフラの格差も調査で明らかになった。次の世代に格差が及ぶ心配がある。
 コロナ以前から、男性よりも女性の方が非正規雇用の割合が多く、平均年収は少ない。構造的な格差が打撃をより大きくしている。
 SDGsの目標5は「ジェンダー平等を実現しよう」。目標はそれぞれ別の方向を向いているわけではなく互いに絡み合う。

日本証券業協会に設置された古本回収ボックス=東京都中央区で (淡路久喜撮影)

 全国の証券会社でつくる日本証券業協会は3年前、SDGsの達成に自分たちも積極的にかかわっていこうと決めた。子どもの貧困問題や女性が働きやすい環境づくりなどに取り組み始めている。
 証券業界と貧困問題。ちょっぴり意外な取り合わせだ。実際、SDGsに関する協会の会議の議事録を見ると「富裕層のビジネス」ととらえられてきた証券業界が取り組むことへの戸惑いの声もあった。
 鈴木茂晴会長はこう考えている。「格差が広がり中間層にある種の亀裂が入っている。皆がきちんと暮らしていける社会を支えていかないと、われわれのビジネスも発展していかない」
 SDGsは、未来につながる17の扉の鍵穴と考えてもいいかもしれない。自分なりの開け方をそれぞれが考えていく中で、社会に新しい課題解決の回路を生み出す可能性を秘めている。 (早川由紀美)

◆きちんと暮らせないと企業も国も発展しない 日本証券業協会・鈴木茂晴会長

SDGsについて話す日本証券業協会の鈴木茂晴会長=東京・日本橋で

 -SDGsに関心を持った経緯は。
 「2017年に日本証券業協会の会長に就任した際、証券業界全体で打ち出せるものがないかと考えたのがきっかけ。(出身の)大和証券で社長をしている時に、途上国のワクチン接種に必要な資金を集めるワクチン債(注1)を日本で初めて発行した。商品を販売することで多くの人の命を助けることができる。SDGsの17の目標を見ると、インパクト・インベストメント(利益追求とともに社会課題解決を図る投資)など証券業界がビジネスの中で取り組んでいける部分がたくさんあるのではないかと考えた」
 -女性が働きやすい環境整備や子どもの貧困問題解決も協会として取り組む柱にしています。
 「女性の活躍支援と、その前提となる長時間労働の是正は大和証券でも力を入れてきた。優秀な女性がたくさんいるのに給与や昇格で男性と差がつくことで働く意欲を阻害してきた。女性も社会の一員として上昇意欲を持って努力ができ、活躍の場が広がるように環境を整えていきたい」
 「日本では子どもの相対的貧困(その国の生活水準と比較して困窮した状態)が社会の大きな問題。格差が広がってしまう」
 -どんな取り組みが始まっていますか。
 「SDGsに関する会議の中で話をしているうちに株主優待品を活用するというアイデアが出てきた。証券会社は株主として株を保有しているので優待品も会社に送られてくる。各証券会社が保有している優待品のリストを、子ども食堂などを運営するNPO法人などにお示しし『米が欲しい』『缶詰が欲しい』という声に応じて届けている」
 「また、協会内に基金を設置し、証券会社が受領した優待品の換金相当額を寄付することや、上場している証券会社には自社の株主優待の選択肢の中に、この基金への寄付を加えることを働き掛けている。各証券会社の計1400の店舗で古本回収ボックスを置いてもらい、内閣府などが行っている『こどものみらい古本募金』に寄付している」
 -SDGsに関する会議の議事録を見ると、「富裕層のビジネス」とされてきた証券業界が貧困問題に取り組むことへの戸惑いの声もあります。
 「かつて日本は9割の人が中流と思っていた。今は非正規雇用で働く人の割合が4割近くいる。中間層にある種の亀裂が入っている。皆がきちんと暮らしていける社会を支えていかないと、われわれのビジネスも発展していかないし、国も発展しない」
 「企業はもうければいいというのではなく、どういう形で利益を上げ、社会で役立っているのかが問われる時代になっている。特に証券の仕事は、社会の必要としているところにお金を回す役割を果たしているが、リスクのある商品を販売しているため、一段と社会における責任が問われていると考えている。ESG投資(注2)が注目されているのも、企業が社会に対して貢献しているのか、環境にどれだけ配慮しているのかが重視されるようになっているから。だんだんとその部分は大きくなっていくと思う」
 注1 ワクチン債 発展途上国での子どもの予防接種の資金を計画的に調達するために発行される債券。英国など政府の長期的な寄付を償還原資にあてる。
 注2 ESG投資 環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字。これらの課題への企業の取り組み姿勢を投資の判断材料とする。女性や外国人が活躍しやすいかなど多様性も重視される。
<すずき・しげはる> 1947年京都府生まれ。慶応義塾大学卒。71年大和証券入社。大和証券グループ本社社長、会長を経て2017年から日本証券業協会会長。 

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