「首相にとって何が『多様性』なのか…理解に苦しむ」 学術会議の大西元会長

2020年11月1日 05時50分
 日本学術会議(梶田隆章会長)の新会員候補6人の任命拒否問題は、発覚から1カ月が過ぎた。国会での論戦が始まったが、菅義偉首相は任命拒否の理由をはっきり示さないまま、対応の正当性を主張する。「多様性」を持ち出すなど後付けとも取れる苦しい答弁を重ねる姿には、人事権を盾に異論を排除するかのような政権側の強い意志が感じられる。(望月衣塑子)

参院本会議の代表質問で答弁に臨む菅首相。左は麻生財務相

◆「これまでで一番多様性を反映」

 「多様性が大事だ」「『旧帝国大』と言われる7つの国立大に所属する会員が45%を占め、私立大は24%にとどまる」。菅首相は30日の国会答弁でそう語った。

学術会議の大西隆元会長(2016年撮影)

 この答弁に、学術会議の大西隆元会長は「今回の候補者はジェンダーや地域間の格差含め、これまでで一番、多様性が反映されている。首相にとって何が『多様性』なのか理解に苦しむ」と首をかしげる。首相が任命拒否した6人も、半数は私大所属だ。
 大西氏によると、2016年ごろから、会員選出の途中でも官邸から説明を求められるようになった。内閣人事局が設置されたのは14年5月。大西氏は「人事局ができて、霞が関の幹部人事でも官邸が事前に相談や報告を求める流れが進んでおり、学術会議もその対象になっていったと感じた」と明かす。

◆18年の政府文書「まったく知らない」

 18年秋ごろには、定年を迎える会員の補充候補に、杉田和博官房副長官が難色を示した。
 大西氏の後任の山極寿一前会長は、NHKのインタビューで当時をこう振り返った。「杉田副長官に面会を何度も申し上げたが『来る必要はない』と。『官邸に出向きますから』と言ったが『来る必要はない』『理由も言うつもりはない』といった返答ばかり。全く接触を断たれてしまった」。結局、欠員の補充はできなかった。
 同じ頃、内閣府の学術会議事務局が作成していたのが、首相の任命権について検討した文書だ。18年11月13日付の文書で、会議法7条2項の「会議の推薦に基づいて総理が任命」とされる首相の任命権を、憲法15条1項などを基に「総理に推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」とした。
 しかし山極氏は文書について「全く知りません。文書があることも聞かされてない」とインタビューで明かした。当時の元幹部も「そのような文書が作られていたことも内容も、会長経由では一切知らされていない」と証言する。
 元幹部は「当時この文書が出ていたら、会議側と内閣府の間で大きな議論になっていたはずだ。会長はじめ幹部らは文書の存在を全く知らず、議論もしていない。内部検討資料にしかすぎない」と批判する。

◆「問題ある解釈」

 文書の最後には「総理が、任命すべき会員の数を上回る候補者の推薦を求め、その中から任命するということも否定されない」との記述もあり、大西氏は「会議法で総理に付されていない推薦権が総理に付されているように読め、問題のある解釈だ」と指摘する。
 学術会議事務局は本紙の取材に「当時、山極会長に口頭で要点のみを説明した。会長がどう受け止めたかはわからない」と回答。内閣法制局は「内閣府と会議とのやりとりは知らない」とした。

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