7~9月の自殺者増加 専門家「1人で悩まず相談窓口を活用して」

2020年11月4日 05時50分
 今年1月から前年比で減少してきた月別の自殺者数が同7~9月、増加に転じている。自殺対策に取り組む団体は、新型コロナウイルス感染症による生活不安の増大や、芸能人の自殺報道が引き金になった可能性を指摘する。専門家らは「1人で悩まず、電話や会員制交流サイト(SNS)の相談窓口を積極的に活用してほしい」と呼び掛けている。(奥村圭吾)
 10月、都内の20代の女性が家族と暮らす自宅で突然、自らの命を絶った。遺書は見つかっていないが、数年前から摂食障害や精神疾患を患っており、コロナ禍も自室から出ずに引きこもりがちだったという。

◆前年より最大15・7%増

 警察庁の統計(速報値)によると、1~6月の月ごとの自殺者数は1450~1746人で、前年同期比で最大17・7%減少。一方、7月の自殺者数は1818人(前年同月比25人増)、8月は1854人(同251人増)、9月は1805人(同143人増)と前年より最大15・7%増えた。
 厚生労働相指定法人「いのち支える自殺対策推進センター」によると、社会的危機の最中や直後、人々の死への恐怖や社会的連帯感が高まり、自殺者が減少するという。コロナがまん延した4~6月にも「同様のことが起きた可能性がある」と分析する。
 一方、7月以降は長引くコロナ禍の影響が深刻化。特に貧困や育児、ドメスティックバイオレンス(DV)、介護などの問題を抱える女性で影響が大きかったとみられる。

◆「ウェルテル効果」の可能性を指摘

 さらに、同センターは、著名人の自殺報道が自殺者増に影響する「ウェルテル効果」という現象が起きた可能性が高いと指摘する。
 若手俳優の三浦春馬さん=当時(30)=の自殺報道があったのは7月18日。同17日までは前年と比べて自殺者が少なかったが、18日以降の1週間は、前年同期間や前1週間と比べ多かった。9月には女優の竹内結子さん=同(40)=らの自殺が相次いで報じられた。こうした際に「心が揺れて怖い」「自分も自殺してしまいそう」などの相談が増える傾向にあるという。

◆「話を真剣に受け止めてくれる人もいる」

 SNSや電話で相談を受け付けているNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」(東京)の清水康之代表は「コロナの影響は現在進行形で続き、出口が見えない状況に変わりはない。自殺のリスクは高いままだ」と警戒する。「周りには話を真剣に受け止めてくれる人もいる。もし、いなければ、1人で抱え込み過ぎず、勇気を出して相談してほしい」と話す。
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◆NPO法人「蜘蛛の糸」の佐藤久男理事長

「悩んだら遠慮せずに助けを求めてほしい」と呼び掛けるNPO法人「蜘蛛の糸」の佐藤理事長

 新型コロナウイルス感染症のまん延で閉塞した空気が漂っている―。自殺率が高い秋田県で2002年に自殺対策に取り組むNPO法人「蜘蛛の糸」を立ち上げ、「10万人署名活動」で自殺対策基本法の制定に向けて尽力した佐藤久男理事長は「精神疾患を抱える人やコロナ禍の失業で生活に行き詰まった人にとって、とても危険な状態が続いている」と指摘する。
 蜘蛛の糸は、臨床心理士や産業カウンセラーら約20人が所属。対面や電話、無料通信アプリ「LINE(ライン)」、オンラインのビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」で相談を受けている。

◆切実な相談寄せられる

 「コロナの影響で派遣切りされた。子どももいるし生きていけない」「外国人旅行者が減って通訳の仕事が無くなり、ずっと引きこもっている」。子育て中の女性や中年男性、ホテルや飲食店の関係者らから切実な相談が寄せられている。
 佐藤さんらスタッフは、就労あっせんや全国社会福祉協議会による生活福祉資金の貸付制度を紹介し、時に生活保護の受給を勧めることもある。「自分の感情が許さない」と拒む人もいるが、そんなときは「こうなったのはあなたの責任じゃない。また回復したら、やめればいいじゃないか」と優しく語りかけている。
 日本全国の自殺者が約2万4000人から約3万2000人に爆発的に急増し、社会問題化した1998年。前年に山一証券や北海道拓殖銀行などの金融機関が相次いで破綻し、今と同じような閉塞感が全国に広がった。

◆「何も恥ずかしいことではない」

 佐藤さんは、そんな過去の経験から「首都圏以外の地方都市にはもっと遅れて、深刻な影響が表れるはずだ」と気を引き締め、悩む人たちにメッセージを送る。「悩んだら遠慮せずに助けを求めてほしい。何も恥ずかしいことではないのだから」
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◆相談窓口


・自殺予防「いのちの電話」
 0570-783-556(午前10時~午後10時)
 0120-783-556(フリーダイヤル、毎月10日午前8時~翌日午前8時)
全国のいのちの電話一覧(一般社団法人「日本いのちの電話連盟」)
いのち支える相談窓口一覧(自殺総合対策推進センター)
・こころの健康相談統一ダイヤル
 0570-064-556(曜日、時間は都道府県により異なる)
都道府県・政令指定都市の相談窓口

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