強面オヤジが守る立石の情緒 のんべえの酒都代表・もつ焼き「宇ち多゛」

2020年11月4日 07時11分

開店から行列のもつ焼き店「宇ち多゛」

 東京にあるディープな飲み屋街の中でも葛飾区の立石は「のんべえの酒都しゅと」と親しまれている。その代表格がもつ焼きの「宇ち多゛」だ。取材NGを貫くこの店が、地域密着の本紙ならとインタビューに応じ、客をビビらせる強面こわもて接客や独特ルールの訳、そして店の周りで進む再開発への思いを打ち明けた。
 レトロなアーケードが目を引く京成立石駅前の立石仲見世商店街。10月中旬の平日、まだ日が高いうちから行列ができていた。揚げ物や総菜のにおいが胃袋を刺激する。
 多くの初心者が直面するのが、宇ち多゛が客に求める独特なルールだ。「かばんは抱えて入店する」「既に飲んでいる人はお断り」。ネットには常連客が書き込んだ「入門編マニュアル」「9つのおきて」なる記事がずらり。行列待ちの暇つぶしでそんな記事を読めば、店に入る前から緊張が高まる。
 ぶっきらぼうに促され、いざ入店。オレンジ色の明かりの下で、みんな談笑することなく、黙々と料理に向き合っている。「入門編」に書いてあった通りに、おとなしく絶品のもつ焼きを食す。撮影は自分の手元以外はNG。30分ぐらい過ごしただろうか。外に出ると、奇妙な充実感に包まれた。
 このドキドキの正体はなんだろう。店を仕切る3代目の内田朋一郎さん(50)は仏頂面を緩めて意外な答えを口にした。「作り込みだよ、全部。普段からこんな怖い顔のやついねーよ」

「宇ち多゛」の内田朋一郎さん=いずれも葛飾区で

 「いい年したおじさんがさ、改札を出て『あいつも同じ車両に乗っていたな』と少し速足になる。等間隔で行列に並び、窮屈な空間で行儀よく食べて飲む。ようやく抑圧から解放されて外に出るとまだ明るい。『あー気持ちいい』って、ここまでが宇ち多゛なんだ」
 そして、独特なルールは、みんなに気持ちよく飲んで帰ってもらうための「味付け」だった。
 「25度の強い焼酎を飲ませているところだから、ある程度コントロールさせてもらわないと収拾がつかなくなる。あらかじめ酒が入っていると声も大きくなって隣にも絡んじゃうだろうしさ」
 過去に苦い経験をしたわけではない。客のためを思って続けている流儀なのだ。
 昭和の匂いをとどめる立石。しかし駅周辺では線路の高架化に合わせた再開発が計画されている。良くも悪くもゴチャゴチャした駅前を整理し、災害に強い街にしようというのだ。既に一部の飲食店が消えるなど「酒都」の景色は変わり始めている。立石で生まれ育った内田さんは、防災面で改善が必要だと理解しつつも、複雑な感情をにじませる。
 「いつかはやらなきゃいけないと思うけどさ、寂しいよね。五感で楽しむのが立石。揚げ物や総菜のにおいがなくなったらうちの魅力も減る。1つのピースも欠けちゃいけないんだ」

◆あの味を自宅でも 缶チューハイ発売

 ローカルに根ざした店なのに、全国展開するメーカーも熱視線を注ぐ。宝酒造(京都市)は「焼酎ハイボール 立石宇ち多゛のうめ割り風」を9月に発売。店舗とのコラボは初の試みといい、11月10日からは販売ルートを全国に広げる。
 宇ち多゛の名物メニューとなっている、焼酎に梅シロップを入れた「ウメ割り」を辛口チューハイで再現。3代目の内田朋一郎さんが監修し、1年がかりで完成させた。
 のれんと同じえんじ色のパッケージには店舗のイラストが描かれている。朋一郎さんは「地方に住むかつての常連さんたちに『元気でやっていますよ』と伝えられたら」と話した。

宇ち多゛ 1946年11月、フランス料理のコックだった内田六二(ろくじ)さんが戦後の食糧難の中でもつに目を付けて屋台で開業。後に現在の場所に店を建てた。おいしさの秘密は仕入れてすぐに提供する新鮮さ。ネタは全て1皿200円。京成立石駅すぐ。日曜、祝日休み。

「宇ち多゛」のもつ焼き。一皿2本で提供される

「宇ち多゛」の煮込み

 文・加藤健太/写真・坂本亜由理
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