「撮影禁止」の福島県・原子力災害伝承館 双葉町の展示要望には応じず

2020年11月4日 10時11分
 東京電力福島第一原発事故の教訓を後世に伝えるため、9月に開館した「東日本大震災・原子力災害伝承館」(福島県双葉町)。津波被災地にあり、事故収束作業が続く原発が近いにもかかわらず、館内の展示からは「現場感」が伝わってこない。事故から10年がたとうとする中、被災の記憶・記録を残すことと復興の間にある溝の深さに不安を感じた。(小野沢健太)

東日本大震災・原子力災害伝承館(赤丸で囲った部分)の南(写真上)には、汚染土を保管する中間貯蔵施設と福島第一原発がある=福島県で、2020年8月4日に本社ヘリ「あさづる」から

 福島第一原発から北へ3キロ、伝承館は大津波に襲われた場所にある。近くには押しつぶされた自動車が残ったまま。重機での撤去作業が進むそばで、外壁がなく鉄骨がむき出しの建物がポツンと立つ。駐車場には大型バスが並んでいた。訪れた10月19日は月曜だったが、札幌市の高校生や群馬県高崎市の経済団体などでにぎわっていた。

伝承館(右奥)の敷地近くでは津波で壊れた自動車の撤去作業が行われていた=福島県双葉町で

◆「原子力明るい未来のエネルギー」看板は写真のみ

 2階の展示エリアに入ると、壁に印刷された大きな写真が目に留まる。双葉町内にあった「原子力明るい未来のエネルギー」という標語看板だ。町は実物の展示を求めているが、同館担当者は「看板が大きく、全体は展示できない」と応じていない。説明書きに「第一原発と地域の結び付きを示している」とあるだけ。住民らが原発の安全神話をすり込まれてきたことを示す物証のはずだが。
 原発事故の進展状況は動画で解説されていた。ただ津波対策は十分だったのかなど、東電や国が被告の裁判で争点になっている疑問は一切解消されない。
 津波の到達時間で止まった時計、事故直後に収束作業に当たった消防隊員の服などはあるが、実物が少ない。除染作業員の防護服や除染ごみを入れる袋「フレコンバッグ」は使用後は捨てなければならないので、どれも新品。ショールームのようで、除染の困難さは伝わってこない。

◆「著作権」「プライバシー」 撮影禁止の理由

 展示品をカメラで撮ろうとすると、職員から「撮影はお断りしています」とストップがかかった。同館や県の担当者は「著作権の問題や個人のプライバシーにかかわる」と言うだけだ。

2階の展示エリアのみが撮影禁止だが、入り口に「写真・動画撮影禁止」の看板が立っている=福島県双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館で

 同館には29人の語り部がいる。1日4回、被災体験を語る伝承館ならではの取り組みだ。しかし、県が語り部に、国や東電など特定の団体への批判や中傷をしないよう求め、話す内容も事前にチェックして修正させてもいるという。それでは、「官製」の物語になるのではないか。

◆展示に不満多く「被災者の感覚とずれてるんだよなぁ」

 ここは何のための施設なのだろう。県の担当者は「被災の事実を伝えることが趣旨であり、われわれの思いを示すことはない。来館者が感じ取ることに任せる」。来館者12人に話を聞くと、9人が展示内容に「不満」を感じていた。
 避難生活を強いられ、南相馬市に戻った主婦(62)はため息交じりにこぼした。「復興に向けて前向きなイメージを打ち出したいのかもしれないけど、事故の苦しみはまだ続いている。被災者の感覚とは、ずれてるんだよなぁ」

東日本大震災・原子力災害伝承館 福島県が建設し、指定管理者の公益財団法人「福島イノベーション・コースト構想推進機構」が運営。総工費は約53億円で、全額を国の交付金で賄った。地上3階建て、延べ床面積約5300平方メートル。震災や原発事故関連の資料約24万点を所蔵し、うち約170点を展示している。9月20日に開館し、10月12日には来館者が1万人を超えた。入館料は大人600円、小中高生300円。公式ウェブサイトはこちら

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