「分断」を融和に導けるか バイデン氏に重い課題<アメリカ総局長評論>

2020年11月8日 02時26分

4日、米東部デラウェア州ウィルミントンで支持者に語りかけるバイデン前副大統領(左)=AP

 大激戦の末、米大統領選を制した民主党のバイデン氏の背中を押したのは、分断された国民の「怒り」だった。現場で有権者の声を拾い続け強くそう感じた。
 トランプ大統領は6月、ホワイトハウス近くで開かれた人種差別への抗議デモを催涙ガスで鎮圧した。ある黒人の大学生は居並ぶ警官隊の前で「一緒にこぶしを挙げてくれ」と訴え、泣き崩れた。彼は自分のことよりも「17歳の妹と11歳の弟がこの国で生きていけるか心配だ」と語った。
 黒人だけではない。「白人の沈黙は暴力と同じ」「人種差別のパンデミック(世界的大流行)だ」―。さまざまな人種や職業の人々が、思い思いのメッセージを段ボールに手書きし、高く掲げた。「過激な左派が扇動する暴力行為」と切り捨てるトランプ氏の主張とは全く違う光景だった。
 新型コロナウイルスの感染拡大は、社会の亀裂を一層深めた。トランプ氏が新型コロナを「チャイナ・ウイルス」と呼んで中国側に責任を転嫁する中、大学病院の麻酔科に勤務する中国系の女性医師は見知らぬ男から「中国野郎、天然痘をまき散らすな」と罵声を浴びた。命を救い尊敬されるべき医師への中傷。「怒りと恐怖で取り乱して仕事ができなかった。麻酔で失敗したらどうしようかと…」。アジア系住民への偏見も人ごととは思えなかった。
 米国の新型コロナ感染者は近く1千万人を突破、死者は24万人に迫る。今夏に取材した中西部オハイオ州郊外に住む元共和党支持の白人女性は、感染の脅威を軽視するトランプ氏では「子どもの将来が心配」と口にしていた。改めて電話で話すと、トランプ氏の感染に驚いた7歳の娘から「大統領はなぜマスクをしないの?」と問われ、言葉を失ったという。
 トランプ支持者も「怒り」を増幅させていた。選挙戦終盤、南部ジョージア州で知り合った支持者の白人男性は、トランプ氏が科学的データを軽視する発言を繰り返すことについて「科学者にもそれぞれ異なった意見がある」と擁護した。
 彼は世論調査には答えないとも言った。白人労働者層中心のこうした「サイレント・マジョリティー(声なき多数派)」が、大接戦を演じたトランプ氏を最後まで支え続けた。
 
 真っ二つに割れた国民の深い傷を癒やし、融和への道筋をつけられるのか-。バイデン氏の肩に重すぎる課題がのしかかる。
(アメリカ総局長・岩田仲弘)

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