<トヨタウォーズ1>老舗かっぱメーカーと国難コロナに立ち向かう「アベンジャーズ」 カイゼンで生産量100倍

2020年11月10日 13時02分

VS新型コロナウイルス 防護服プロジェクト(前編)

◆アベンジャーズが来た

 「国難とも言うべき事態を乗り越えるため、まさに日本全体が一丸となって…」。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相が緊急事態宣言を全国に広げる方針を打ち出した4月16日。名古屋市内の老舗かっぱメーカー「船橋」に、トヨタ自動車の作業着をまとった屈強な男たち8人が車で到着した。
 「本当に来た! アベンジャーズみたい」。入社3年目の大谷真奈美(25)は、アメリカ映画のアクションヒーローと、その一団を重ねて思わず声を上げた。

(上)素材のロールを一度に4本まとめて引き延ばすことができるように、トヨタ自動車のメンバーが自作した装置 (中)工程間の人やモノの流れを徹底的に分析し、最適なレイアウトに変更した作業場 (下)仕上げた防護ガウンを畳む作業は2人1組に変更して作業を効率化した=いずれも名古屋市中村区の「船橋」で

 1921(大正10)年に創業し、パートを中心に約35人の従業員で業務用のかっぱやエプロンを製造してきたが、新型コロナで状況が一変した。
 「病院で感染を防ぐ防護ガウンが足りない」。社長の舟橋昭彦(53)に、医療関係者から相談があり、かっぱのノウハウで試作したところ、国から大規模な増産を要請された。
 だが、自社では1日に500着が精いっぱい。当時、ごみ袋に穴を開けて代用する医療機関もあった。舟橋が「生産が追い付かず、心配で寝付けない」と悩んでいたころ、1本の電話が入った。

◆世界のトヨタがうちに? 新聞記事見て申し出

 「どういった支援ができるか分かりませんが、一度、現場を見せてもらえないでしょうか」。トヨタの男性社員から、かっぱメーカーの船橋(名古屋市)に電話があったのは、4月14日の朝だった。
 当時、国からの要請で新型コロナウイルスに対応する病院向けの防護ガウンの生産で孤軍奮闘していた。
 「世界のトヨタがうちに来てくれるのか?」
 電話を受けた社長の舟橋昭彦(53)は、半信半疑だった。
 連絡のきっかけはその日の中日新聞朝刊経済面の記事。「裁断や輸送 協力募る」の見出しが、何かできないかと探し回っていたトヨタ社内の複数の人の目に留まった。
 到着したトヨタの部隊は、各国で新工場や新型車の立ち上げを指揮してきたベテランばかり。舟橋は「どんな指導をされるのか」と身構えたが、彼らが最初に発したのは意外な言葉だった。

◆「まず手を動かす」

 「作業を止めてご迷惑だと思いますが、一緒に手を動かしても良いですか」。トヨタのグローバル生産推進センターベスト技能推進室に所属する高松貞治(47)は、一緒にパート従業員の横に立つと、黙々と作業を始めた。
 「自分でやって仕組みを理解しないと、物は言えない」と高松。中学を出て企業内訓練校のトヨタ工業学園に進み、現場一筋で腕を磨いてきた。「まず手を動かす」。体に染み付いた基本を実践し、すぐにトヨタ流のカイゼンに入った。
 防護ガウンはポリエチレン製の使い捨て。作業はロール状の生地を延ばして同じ長さに切って重ね、機械でガウンの形状に裁断。袖の部分を熱や超音波のミシンで溶かしてくっつけ、異物の混入や破れをチェックしながら畳んで出荷する。
 トヨタが最初に分析したのは、工程間のモノの流れだった。素材のロールをラップの要領で引っ張って重ねる作業の効率が悪く、後の工程の滞留を招いていた。一度に4本のロールを引くことができる装置を自作し、素材自体も1層から2層に変えることで、一気に効率を8倍に高めた。
 各作業にかかる時間を計り、人海戦術の畳み作業を2人1組に改めるなど試行錯誤を繰り返した。人やモノの移動を削るため、工場内の配置を見直し、作業台の高さを従業員の身長に合わせて、作業のしやすさと疲れにくさを追求した。1日500着だった生産量は、5月の連休明けには4000着に跳ね上がった。
 米国や英国の工場の支援も経験してきた大日方おびなた誠(56)は「構造的な大きな変更をして、その後は細かな『1秒カイゼン』。トヨタでやってきたことがそのまま生きた」と振り返る。

◆「7社連合」で生産量100倍に

 ガウンの生産には、自動車部品や縫製など東海3県の中小6社も協力を申し出た。トヨタがパイプ役となり、各社の強みを生かしたカイゼンを会議や日報、動画で共有。切磋琢磨せっさたくまして作業性を磨いた結果、7社連合の1日の生産量は、船橋単独だった当時の100倍の5万着に達した。
 プロジェクトの先陣を切った船橋の作業場には6月、トヨタ社長の豊田章男(64)が駆けつけ、「世の中から感謝される良い仕事をされていますね」。従業員をねぎらうとともに激励した。
 その豊田は船橋の支援に入る直前の4月上旬、マスクや医療関連用品の生産支援策を打ち出した自動車関連団体の記者会見で、こう発言していた。
 「なぜ、つくれるのか。それは日本にものづくりが残っていたから。リアルなものづくりの現場は絶対に失ってはいけない」
 世界的大企業のトヨタと、製造業を下支えしてきた船橋など中小7社との連携は、その誓いを果たし、ものづくりの現場を維持する闘いでもあった。(敬称略)
   ◇
 未来に向けたトヨタ自動車の闘いに迫る連載「トヨタウォーズ」は、新型コロナ感染拡大という未知の危機に直面する中、本業で減産を迫られながらも、お家芸「トヨタ生産方式(TPS)」の教えを胸に、国内外で異業種支援へ乗り出したトヨタの現場の人々を追いかける。

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