「200兆円」温暖化対策は実現できるのか? バイデン氏に立ちはだかる「ねじれ議会」の壁<アメリカ大統領選>

2020年11月9日 16時00分
 中国に次ぐ世界第2位の二酸化炭素(CO2)排出国・米国で、地球温暖化対策の強化を掲げる民主党のバイデン政権が誕生する。国際的な対策にどう影響するのか。温暖化を巡る国際関係に詳しい亀山康子・国立環境研究所社会環境システム研究センター長(政治学)に聞いた。(福岡範行)

この記事のポイント
・上院で共和党が過半数維持なら、炭素税導入などの法案成立は難しい
・再生エネへの大幅シフトで雇用創出し、共和党支持者を納得させるかが鍵
・温暖化対策のリーダーシップ巡り、中国に挑戦的態度をとる可能性
・気候変動による難民受け入れを先進国に迫るかもしれず、日本政府も国内で議論が必要

◆上院で共和党は過半数維持か 増税による財源確保は困難

ーアメリカはバイデン政権で温暖化対策はどうなりますか?
 米国内では、トランプ政権下でも州や企業のレベルでは、脱炭素に向けた動きは見えていました。再生可能エネルギーが石炭火力発電より安い状態が続いていますから、市場メカニズムでエネルギーの脱炭素化は続くと思います。それを加速させるさまざまな施策を取ると思いますが、連邦政府全体で大幅なかじをきるような政策は打ちづらい状態が続くと考えています。
 大統領選と同時に実施された連邦議会選挙の行方も見ていますが、上院で共和党が過半数を維持するねじれ状態になると、例えば「炭素税」の導入といった法案は議会で通しづらい状態が続きます。
気候変動対策の重要性を指摘するバイデン氏のツイート
-公約では、再生エネ関連などのインフラ整備への2兆ドル(約200兆円)の投資で雇用創出を目指すなどとしているが、実現は難しいのでしょうか?
 財源確保のために課税するとなると、公約を全て履行するのは難しくなってくると思います。選挙が大接戦になった一つの理由も、多くの人が、バイデン氏の民主党政権になると増税があるだろうと予想して「とりあえず共和党」と考えたことのようです。
 トランプ氏の考え方は、新型コロナウイルスも気候変動も対策はそこそこで済ませておいて、少しでも経済活動を維持しようというロジック。民主党側は、コロナも必要であればロックダウン(都市封鎖)に近いこともすべきだし、気候変動も同様で、もし景気が冷え込んだら別途、景気向上策を取るというような説明をしていますから、最後は財源の話になってきます。

◆スピード感なければ、気候変動対策もオバマ政権の二の舞い

ー公約をより多く実現するためのポイントは何でしょうか?
 米国からは、バイデン氏周辺のスタッフが再生エネ関連のビジネスのキーパーソンにアプローチしているという話が聞こえてきていて、とりあえず再生エネへの大幅なシフトが想定されています。そこでどれだけ雇用を創出でき、共和党支持層も納得させることができるのかが、ポイントになってくるのではないでしょうか。
 また、民主党内部で、気候変動以外の課題との優先順位の議論が出てくると思います。オバマ前大統領のとき、当初は気候変動の順位は高かったんですが、その後はどんどん下げ、医療保険制度をより高い優先順位に持って行きました。
 今回の民主党の候補者選びでは、バイデン氏が本当に支持されたというより、ある程度妥協してトランプ氏に勝つことを優先したといえます。党内には気候変動を第一に考える人もいれば、他の課題を優先する人もいます。連邦議会で温暖化対策に向けた電力や自動車の規制などの方針を決めることに時間がかかるようだと、他の課題に関心を持つ民主党支持者が離反し始めることにもなり得ます。
トランプ政権でアメリカはパリ協定から離脱したが、バイデン氏は復帰を明言

◆温室効果ガス実質ゼロ リーダーは中国かアメリカか

ー米国外への影響は?
 特に国内での政策がうまく進まない場合はリーダーシップを見せる場として、国際舞台をフル活用すると予想します。
 中国との関係では、米国内の中国に対する姿勢が厳しくなっているので、バイデン氏は、気候変動においても挑戦的な態度で出ざるを得ないと思います。
ー中国は9月、2060年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を表明しました。米国は、どう中国に迫りますか?
 中国自身は、自分たちが世界のリーダーなんだと意識して話をするようになっていて、排出量実質ゼロ宣言もその一環と捉えられます。バイデン氏はそれに対抗し、米国がリーダーだと世界に誇示するようなポジションを取らざるを得なくなると思います。
 国際的な温暖化対策の枠組み「パリ協定」では、国際対策への先進国の資金供与は義務です。他の国は任意ですが、中国をはじめ経済的にゆとりがでてきた国には、先進国並みの資金供与を求めていくだろうと予想します。
 また、パリ協定では5年に1回、世界全体で協定の目標達成に向かっているかを検証するプロセスがあります。1回目は2023年に行われます。そのタイミングを狙って、中国は実質ゼロという目標を掲げたが、本当にちゃんとやっているのかとけん制をかけていく可能性はあるかと思います。米国はきっと排出削減方向に向かうでしょうから。
バイデン氏のツイート「私たちは共に、気候危機を解決できるし、解決していく」

◆気候変動「難民」 問われる排出上位国の責任

ーパリ協定の枠組みで検証を強化するなら、日本などにも影響するでしょうか?
 余波を受ける可能性は大いにあります。民主党は多国間主義を重視する政党でもあります。日本も後れを取っていると思われないように、きちんと対策をしないといけないということは、当然言えます。
ー国際社会への影響は他にあるでしょうか?
 パリ協定の交渉の観点からいうと(海面上昇で)島が沈んでしまうなどして発生した移民をどう救うのかも、大きな議題になってきます。民主党政権は「米国も受け入れるし、他の国も受け入れなさい」という話の仕方をしてくるでしょう。日本は国内の洪水や台風の対策の話はできているが、移民、難民の受け入れの話は、全然検討できていない。受け入れを求められると想定されうることを踏まえ、国内で話し合っておく準備が必要だと思います。
ーそもそも、なぜ移民を受け入れなければいけないのでしょうか?
 温室効果ガスをかつて出した人たちによって今の気候変動が起き、その被害を受けた人たちが難民化しているというロジックです。日本が世界の排出量の5%を出していたとすれば、単純計算では、難民の5%は受け入れる責任があるという考え方になります。こうした気候変動の被害を先進国が補てんすべきだという議論は、国際的に何十年も前からなされてきました。
 米国内では、共和党はそもそも気候変動が人為起源かも分からないといった言い分ですが、民主党は先ほどのようなロジックで考えています。この辺りは、どちらが大統領になるかで大きく対外的に違ってくる部分だと思います。

パリ協定 京都議定書に代わる地球温暖化対策の国際協定で、2020年1月から本格始動。今世紀後半に世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、産業革命前からの世界の平均気温の上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目標とした。発展途上国にも対策を義務付けた枠組みだが、主要排出国の米国は19年11月に国連に協定離脱を通告し、20年11月4日に正式に離脱した。19年12月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)で実施ルールが議論されたが、一部の合意が先送りに。20年11月に英国で予定されたCOP26は新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期された。

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