<トヨタウォーズ2>コロナに立ち向かう「完全国産」の防護ガウン 生産性アップの秘訣は「聞く力」

2020年11月10日 19時00分

VS新型コロナウイルス 防護服プロジェクト(後編)

◆トヨタ流のカイゼン、中小の防護服メーカー7社に直伝

 「まずは記録する習慣づけです。どこが弱いか、どの時間帯が少ないか、分かってきます」
 業務用のかっぱを手掛ける船橋(名古屋市)から、東海3県の中小ものづくり企業による「7社連合」に拡大した医療用防護ガウンの量産。トヨタ自動車の支援部隊の大日方誠(56)と高松貞治(47)は6月中旬、岐阜市の縫製業「垂光」の作業場に掲げられた「生産管理板」と呼ぶ表をチェックしていた。

垂光」の作業場で生産管理板を見ながら専務の大堀(左)とカイゼンを話し合うトヨタ自動車の大日方(中)と高松=岐阜市で

 表は工程ごとに分かれ、人数や作業枚数、停止時間を1時間おきに記録する。生産が落ちた時間帯は「(生地の)ロール交換」「(別工程の)畳み作業応援」「シートずれ直し」などと原因を書き込んでいく。
 「ムダ・ムラ・ムリ」を徹底的に省くトヨタ生産方式の基本手法で、垂光専務の大堀八馬(42)は「改善の成果が『見える化』されるので楽しい。生産性は絶対に上がる」と言い切る。情報はトヨタが分析して7社で共有し、互いの作業を見学し合うなどして生産量を底上げしてきた。

◆本業にもカイゼン拡大、秘密は「話を聞く力」

 かっぱ、自動車部品、縫製。7社連合は生産管理板をはじめとするトヨタ流のカイゼンを、本業にも取り入れ始めた。
 「現場から『こう変えても良いですか?』と提案が出るようになった」。スポーツウエア生産「トーヨーニット」(三重県四日市市)でスイム事業統括部長を務める長谷川伸也(60)は、トヨタとの連携で、職場の意識が変わりつつあることを実感している。生産の悩みや設備トラブルがあれば、トヨタの担当者は休日でも駆けつけてくる。そんな姿勢を間近に見た長谷川は「トヨタのすごさは、話を聞く力。相談しやすい雰囲気づくりからカイゼンが生まれることを理解できた」と感謝する。

◆日本のものづくりの火、消すわけにいかない

 愛知、岐阜、三重の3県に散らばる各社を回り、後方支援してきたトヨタの部隊。最初の2カ月間だけで車の走行距離が4000キロを超えた高松は「海外工場の支援を含めても、ここまで中身が凝縮した経験はなかった」と話す。高松らがここまでがむしゃらに取り組む理由は、国内でものづくりの火を消さないためだ。
 コロナ禍でも、年300万台の国内生産体制の死守を掲げ続けるトヨタ。生産部門の「おやじ」として、その先頭に立つ執行役員の河合満(72)は言う。
 「それ(国内生産300万台体制)はトヨタだけではできない。部品メーカーやほかの製造業も、床屋さん、八百屋さんだって…。ものづくりの人材と地域の支えがあって、初めて守ることができる」

◆トヨタ側にも気づき

 7社連合にとって防護ガウンは、生き残りを懸けた挑戦でもあった。各社とも本業では、技術と工夫によって人件費の高い国内で素材の加工から完成品まで手掛ける「一貫生産」を大切にしてきたが、感染症の拡大で受注は減少。海外の技能実習生も多く受け入れ、雇用の維持に必死だった。
 トヨタの大日方と高松は各社に通う間に「仕事や給与があることは当たり前じゃない。言葉の問題も大変。いかにトヨタは恵まれているか」と痛感した。そして、「井の中の蛙の『トヨタばか』だった。ものづくりを考え直す貴重なきっかけになった」と口をそろえる。
 7社連合とトヨタは今、通気性と防水性の高さを両立する新作ガウンの生産を急いでいる。「完全国産」を売りに、新規事業に育てたい考えだ。
 プロジェクトのきっかけとなった船橋で生産現場を取り仕切る森貴司(56)は「トヨタは競争の激しい自動車で国内生産300万台を守ると言っている。自分たちにも、できないはずはない」と前を向く。船橋は近年、生産の一部を中国やミャンマーに移してきたが、その戦略を見直すことを考え始めた。(敬称略)
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 未来に向けたトヨタ自動車の闘いに迫る連載「トヨタウォーズ」は、新型コロナ感染拡大という未知の危機に直面する中、本業で減産を迫られながらも、お家芸「トヨタ生産方式(TPS)」の教えを胸に、国内外で異業種支援へ乗り出したトヨタの現場の人々を追いかける。
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