<トヨタウォーズ3>試作と量産部門の壁なくしスクラム「よしやろう」

2020年11月11日 11時00分

VS新型コロナウイルス 医療用フェースシールド

◆金型づくり30年の経験生かし、量産への課題を究明

 次世代の生産技術研究や、部品の金型開発など、トヨタ自動車のモノづくりを支える「心臓部」でもある貞宝工場(愛知県豊田市)。この片隅で6月初旬、新型コロナウイルスの飛沫感染を防止するフェースシールドの量産が進んでいた。
 紙やすりを手にした従業員が、金型から打ち出される樹脂部品の出っ張りを、黙々と丁寧に削り取っていく。

構内に飾られた河合満執行役員からの激励メッセージ入りフェースシールド=愛知県豊田市のトヨタ自動車元町工場で

 きっかけは米国拠点からの相談。「もっと、うまい作り方はないだろうか」。現地の感染急増を受け、3Dプリンターでフェースシールドの生産を始めたが、供給力が伸び悩んでいた。

◆「同じ状況になった時、自分たちに何ができるか」

 「近い将来、日本も同じような状況になったとき、自分たちには何ができるか」。生産技術を生かした医療支援を率いるモノづくり技術開発部主査の長瀬雅人(52)は、当時の心境を振り返る。その日のうちに、3Dプリンターで試作し、樹脂のフレームを成型する所要時間が量産する際の課題だと突き止めた。
 「これなら金型を造った方が効率が上がる」。金型の分野で30年以上の経験を持つ空谷洋幸(56)は確信し、すぐに仲間と動いた。
 通常の金型は、素材の調達から設計、完成まで短くても半月を要するが、平時からこの期間の短縮に取り組んでいた。本業では箱型の商用自動運転車「イーパレット」など次世代車の開発が本格化している。これらの試作を手際良く進めるため、鋼材よりも加工が容易で安価な亜鉛合金を使った試作用金型を開発してきた経験が生き、たった2日で専用の型を完成させることができた。

◆1日の生産量が5倍4500個に伸びる

 医療現場への聞き取りと試作を急ぎ、4月初旬には量産体制を構築。わずかな間に金型は3回、改良した。最初は金型から部品を手ではがしていたが、全てを自動化し、一度に作る数も増やした。医師らの使い勝手を考慮し、余分な樹脂を削ることで重量もほぼ半減させた。1日の生産量は当初の約5倍の4500個に伸びた。空谷は「今回の経験で(本業の)試作車のデザイン変更が来ても、素早く対応できる」と自信を深めた。

フェースシールド量産に取り組む貞宝工場のメンバーら。金型造りから成型まで、すべて内製で完成させた=画像はコラージュ

 既に行われていた生産現場の組織改革もプラスに働いた。その象徴が1月に発足したモノづくり開発センター。試作と量産部門の壁をなくし、部署間で連携を取りやすくした。長瀬は「以前なら『どこの部署でやるの?』という議論から始まっていた。今回は細かい話は後回し。『よし、やろう』とメンバーが集まった」と説明する。

◆社会貢献とともに若手の研さんの場にも

 医療支援は社会貢献と同時に、若手の研さんの場にもなった。元町工場(同市)は車両のカーボン素材の製品を扱う部署が、顔を覆うシールド部分を担当した。高強度で透明度が高いポリカーボネートは初めて扱う素材だったが、失敗を繰り返して裁断機の刃の角度を微調整するなどして、品質と生産効率を高めた。
 十分な在庫を備蓄できたため、フェースシールドの生産はいったん終えたが、自動車分野では今後、自動運転による車の形状の変化や軽量化など新素材の採用が確実視されている。
 「次に本業で新しいことにチャレンジするとき、『あのとき、こうだったから、こうしてみよう』と考えることができると思う」。電気工事関係の仕事に携わる親の影響で機械いじりが好きになり、トヨタに入社した元町工場車体部の松井紀子(19)も、今回の経験で成長を実感した1人だ。(敬称略)

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