切り絵に込めた望郷、復興の願い 元教諭の大川勤さん、岩手・山田で最後の故郷応援作品展

2020年11月11日 07時59分

震災前の山田町を描いた切り絵と大川勤さん=みなかみ町で

 東日本大震災で被災した岩手県山田町出身で、みなかみ町在住の大川勤さん(70)が十月、故郷の山田町で自作の切り絵を展示販売する作品展を開いた。売り上げを同町へ寄付する目的で震災後に始め、被災前の町を描いて望郷と復興への願いを届けてきたが、高齢のため現地では最後の開催となった。群馬での展示会は続ける予定で「作品を作り続けることで応援したい」と古里への思いを込める。(石井宏昌)
 青く広がる空と緑に包まれる岬。白く輝く砂浜とエメラルドグリーンの海−。作品の数々は、美しい町の風景や、秋祭りでにぎわう町民の姿などを豊かな色合いで表現した。
 山田町は岩手県沿岸中部の三陸地方に位置し、太平洋に面した町。大川さんは高校卒業まで同町で育ち、大学進学で上京。結婚後に群馬に移り住み、小中学校で教諭を務めた。切り絵は三十代から趣味で始めた。旅先などで撮影した写真から下絵を描き、和紙を切り出して染色して仕上げる。山田町を題材にした作品は震災前に撮影した光景がほとんどだ。
 震災から二カ月半後、同町を訪れた大川さんはあまりの惨状に言葉を失ったという。「子どものころに遊んだ港や家並みが津波と火災で何もなくなっていた。がれきばかりで」。「自分にできることはないか」と考えて作品展を企画した。
 「心の旅路」と題した作品展は震災翌年の二〇一二年に群馬で初めて開いた。友人らの協力で一四年から山田町でも開催。以来同町や沼田市で回を重ね、これまで計十二回開き、売り上げの一部を町に寄付した。
 「作品に描いた震災前の光景を見て、町の人たちが『癒やされる』と言ってくれる」と大川さん。そのひと言に逆に支えられたという。「震災後、他県に移った自分だけ幸せでいいのかと後ろめたいような気持ちがあった。作品展を開くことで私も癒やされた」
 震災後、同町を訪れるごとに街並みも変わり、徐々にだが復興を実感することもある。だが大川さんは「まだまだ現地で苦しんでいる人がいる。国は被災地の現実をしっかり見て、痛みを共有してほしい」と訴える。山田町へは今後も同窓会などで訪ねるつもりだ。「昔の光景とともに、変わりゆく町や町民の姿を作品として残していきたい」

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