学術会議、民間の会員増やせは「的外れ」 利益相反を慎重に検討する必要

2020年11月11日 21時09分
 日本学術会議が会員に推薦した6人の候補者の任命を菅義偉首相が拒否した問題で、学術会議の在り方の見直しを進める井上信治科学技術担当相が9日、民間企業のトップらをメンバーとする内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の有識者議員と対談した。議員からは菅首相の「未来志向の在り方を」との指摘に呼応するように「民間企業の会員を増やして」などの意見が出たが、果たして的を射たものなのか。学術会議の元副会長2人に話を聞いた。(望月衣塑子、増井のぞみ)

学術会議の在り方について、井上信治科学技術大臣と意見交換した概要を説明する有識者議員3人。左から梶原ゆみ子議員、小林喜光議員、篠原弘道議員 =東京・霞が関

◆「産業界の会員増を」

 「産業界とアカデミアでさらに緊密な連携をとるべきだ」
 「会員や連携会員を(産業界から)選んでもらえるなら人を出したい」
 「デュアルユース(軍民両用技術)が当たり前の時代だから、民生と安全保障とを切り分けるのは、なかなか難しい」
 9日午前9時から約45分間にわたって内閣府の大臣室で行われた「学術会議の在り方に関する意見交換」では、議員からさまざまな意見が出た。CSTI側は富士通理事の梶原ゆみ子議員、三菱ケミカルHD取締役会長の小林喜光議員、NTT取締役会長の篠原弘道議員の3人の民間企業トップらが参加した。
 会談後、井上大臣は学術会議について「その存在意義は非常に大きい。だからより良いものにとの意見は(議員と)一致した」とした上で「他方、いろいろ課題があるのも共通の認識。どうすればいいか具体策含め考えさせてとお話しした」と述べた。

日本学術会議の在り方について、総合科学技術・イノベーション会議有識者議員と意見交換した概要を説明する井上信治科学技術大臣 =東京・霞が関

 議員からは、産業界の会員や連携会員の比率が3%程度に留まっているとして、産業界から会員を増やしてはどうかとの趣旨の意見が出されたという。 

◆菅首相の発言と重なる指摘

 これは、2日の衆院予算委員会で「閉鎖的で既得権益だ」と主張した菅首相が6人の拒否の理由も説明せず、「民間人や若い人が増えるようにした方がいいと考え、判断した」と、会員構成への偏りを主張した発言と重なる指摘だった。
 篠原議員は「(学術会議の)デュアルユース議論は、今のままではちょっと稚拙な議論になっている」と発言。2015年4月から防衛省が、全国の大学や民間企業の研究者らを軍事研究に取り込むことを目的に新設した助成金制度において、学術会議で度々議論にされた「デュアルユース(軍民両用技術)」の見解にも疑問を呈した。
 

◆「不十分な理解」

 議員らの指摘に学術会議の元幹部らからは「会員の構成や防衛省の助成金制度に対して出された2017年3月の『軍事的安全保障研究に関する声明』への理解が不十分なのではないか」と、疑問の声が上がっている。
 学術会議は、16年5月に制度への対応を検討する委員会を設け、防衛省の研究員から話を聞いたり、欧米のデュアルユース研究と大学との関わりなどの報告を専門家から受けたりして1年議論し声明を発表した。
 声明は、制度は、将来の装備開発につなげる明確な目的に沿って公募審査され、外部の専門家でなく防衛省の職員が研究の進捗管理を行うなど「政府の研究への介入が著しく、問題が多い」と指摘。研究への参加は、大学などが「技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきだ」とし、民生分野の資金の充実も求めた。
 元東芝研究員で学術会議前副会長で科学技術振興機構の渡辺美代子副理事は「学術会議が出した声明は決してデュアルユースを否定しているものではなく、各大学や研究機関がガイドラインや倫理委員会を設置し、研究の公開性などをしっかり議論した上で、防衛省の助成金制度に応募するか否かをそれぞれが判断するよう指南したものだ。(議員らの指摘は)声明への理解が不十分なのではないか」とみる。

◆「民間企業から大学に戻る研究者が増加」

 渡辺氏自身、34年間東芝の研究員などの経験を積みながら、学術会議の会員になり、産業界での経験を踏まえた提言などを行ってきた。学術会議の会員には、渡辺氏のように産業界での経験を積んでから大学などに転身した研究者は少なくないという。
 渡辺氏は「近年、日本の企業収益が減り、昔ほど研究投資ができず、民間企業から大学に戻る研究者が増えている。大学所属の会員が多いのは、そういう現状も反映している」と話す。
 2011~13年に学術会議の副会長を務めた武市正人東大名誉教授は「産業界の会員を増やせと言うのは的外れではないか」と言う。「産業界の会員を 増やした場合、CSTIで指摘されていることと同様に、政府への政策提言を行う際、会員が所属する民間企業との利益相反関係を疑われる可能性がある」と強調。「アカデミーの中立性や公平性の観点から考えた時、やみくもに企業の研究者を増やせばいいのかは、慎重に検討する必要がある」と話す。

◆「まずは6人が欠けた状態の解消を」

 科学技術基本法が今年、25年ぶりに改正されることが決まり、従来は、科学技術振興の対象から外していた「人文・社会科学」も対象に含まれ、人類の福祉や発展のために人文・社会科学の知見が重要と位置付けられた。
 CSTIの篠原議員は改正を踏まえ「産業界は、技術屋はいても人文社会に対する研究者はいない。(学術会議の3つの)部が連携し、新しいものをつくる役割をアカデミーは持っている」と話す。
 この点について、武市氏は学術会議の第三部長の吉村忍氏が「自動運転をめぐる法的課題を検討する際、(任命拒否された)立命館大の松宮孝明教授が大きな役割を果たしていた」と述べていた点を挙げる。「拒否された6人はいずれも人文・社会科学系の研究を代表する優れた研究者たち。基本法改正で、人文・社会系の知識はより重要になり、日本の産業界にとっても6人はなくてはならない存在だ」と言う。
 「政府は、有識者らとの対談を報道陣に示し『改革アピール』をする前に、まずは、6人が欠けた違法状態を解消すべく、任命拒否の問題にきちんと向き合ってもらいたい。在り方を考えるのは、その後であるべきだ」と話した。
 学術会議事務局の担当者は「議員の意見を踏まえつつも『利益相反』の指摘も含め、慎重に議論を重ねたい。声明を議論してきた経緯や声明への理解が不足しているようにも感じるので今後、議員を含め、広く社会の方々にも理解してもらえるよう努めたい」と話す。


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