<トヨタウォーズ4>ピンチはチャンス「うじうじではなく、今やれること」

2020年11月12日 11時30分

◆コロナ減産逆手に HV車製造ライン進化へ

 トヨタ自動車の田原工場(愛知県田原市)は7月上旬、新型コロナウイルスに伴う減産を脱し、挽回生産で活気づいていた。

(右上)工程の無駄や作業のしにくさを洗い出す(左上)生産設備の自主点検手順を学ぶ(中)従業員の名前が書き込まれた横断幕(下)HV用電池パック組み立てラインを整備する=いずれも愛知県田原市で(画像はコラージュ)

 「Oneチームですごいラインを造る・育てる」
 毛筆の横断幕が掲げられた一角では、トヨタの完成車工場では初となるハイブリッド車(HV)向け電池パックの製造ラインの準備が順調に進んでいた。工場の将来の「飯の種」と重視する新規分野で、生産開始が10月に迫っていた。バッテリー領域の経験が豊富で、仲間に「電池おやじ」と慕われる岡山真澄(63)は「このプロジェクトに限れば、コロナによる非稼働は好影響しかなかった」と胸を張る。
 「ランドクルーザー」などの大型車や高級車「レクサス」を担う田原工場は輸出比率が高い。世界的な感染拡大の影響をもろに受け、4~6月に非稼働や夜勤の休止を迫られた。

◆部署の垣根を超えて

 「減産期間をうじうじしながら過ごすのか、今できることをやるのか」
 岡山の思いに応えるように、海外拠点の支援任務が中止になった部隊などが加勢。車に色を塗る「塗装屋」など、畑違いの部署からも続々と手が挙がった。
 一度、形にしたラインをばらして床を塗り直し、配線類も整理した。平常時は余裕がなく、後回しになりがちだが、労災事故や火災の未然防止に欠かせない作業だ。
 同じころ、車両の生産を担う部門では、生産設備を自主点検するマニュアルを作成し、教育を進めた。本来は「保全マン」と呼ばれる専門部隊が担うが、自動化の機械が増え、人手が不足しがちだった。
 車体の溶接などを担当する坂本桂一(40)は「非稼働の日程は事前に分かっていた。『今月はここまで進めよう』とメンバーから声が出た」と話す。保全が専門の野崎裕太(35)は「垣根を越えて保全の領域に入ってきてくれたおかげで、空いた時間で老朽設備を更新するチームをつくることができた」と感謝する。

◆「カイゼンのチャンス」提案360件

 日ごろの作業のカイゼン(改善)も徹底した。品質管理部の吉澤大輔(39)は「止まっているラインを歩き、部品の裏側まで観察するチャンスだ」と前向きに捉えていた。
 各部署からメンバーが集まり、作業時の傷付けを防止する保護フィルムの過剰さや、エンジンに空気を取り込む装置のホースの構造変更など、360件の提案が出た。吉澤は「いつか生産は戻る。そのときに前と同じではなく、もっと良い造り方をしたかった」と仲間の思いを代弁する。
 地元出身の従業員も多く、地域との結び付きが強い田原工場は「世のため活動」と題し、従業員が小中学校、保育園の草取りや側溝の清掃にも取り組んだ。

◆工場全体で生き残りプロジェクト

 こうした活動の報告を受けた社長の豊田章男(64)は、リーマン・ショック直後の社内と比較し、「こちらからやるべきことの優先順位を示さなくても、行動してくれるようになった」と変化を指摘する。
 近年、生産台数が減少し、存続を危ぶむ声も出ていた田原工場は昨年、レクサス「NX」の生産ラインを自前で立ち上げ、車種の幅を広げるなど、工場全体で生き残りを懸けたプロジェクトを推進してきた。
 「自分から仕事を取りに行くというマインドがなければ、何かが起きたときに、ぱっと動くことなんてできない」。工場長の伊村隆博(62)はコロナ対応を通じて「これまでの地道な頑張り、チームワーク強化の成果が少しずつ出てきた」と、手応えを感じている。(敬称略)

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