AIロボ、人形浄瑠璃を猛勉強 八王子の一座 舞台で新演目、感情表現も進化中

2020年11月13日 07時17分

AIロボットかんなちゃん(右)と西川柳玉さんが操る八王子車人形=いずれも八王子市で

 とざい、東西〜。八王子市の人形浄瑠璃一座に、AI(人工知能)ロボットが登場の段−。人形遣いが生身の役者さながらの繊細な感情を人形に吹き込む伝統芸に、浄瑠璃の人形の動きから人の心を得たという最先端ロボットが挑んだ。芝居に欠かせない愛憎や嫉妬などの人間味をロボットは表現することができるのか。時空を超えた異色共演の結末はいかに。

都留文科大の早野慎吾教授

 ♪安珍さま、恨みはこっちにあるものを〜。
 十月下旬、民俗芸能の一座「八王子車人形西川古柳(こりゅう)座」の稽古場兼芝居小屋の舞台。哀切の義太夫節に乗せ、胸に手を当て頭をうなだれて悲しみに暮れていたのは、AIロボット「西川かんな」。約四○センチの“全身”から繰り出す感情表現に、ロボット開発チームの一員で、都留文科大の早野慎吾教授(55)は「研究の途中だが、ここまで来たか」と感慨を示した。
 この日は一座と研究チームが共同で進める配信動画が撮影された。古典の名作のエッセンスを取り入れた「魂時空(たましいじくう)の運行(みちゆき)」と銘打ったオリジナル演目は、一座の五代目西川古柳家元(67)が脚本、演出を務めた。温故知新の取り組みに「経験したことのない世界。コロナ禍で公演も中止続きで大変な時だが、われわれも前に進むきっかけになった」と古柳家元は強調した。

異色の共演。左から人形浄瑠璃の西川柳玉さん、パフォーマーのSAORIさん、AIロボット「かんなちゃん」と操作する董然助手、義太夫の竹本乾太夫さん

 AIロボットがなぜ人形浄瑠璃なのか。筑波大の蔡東生(さいとうせい)准教授(61)が率い、早野教授、東京工科大の生野(いくの)壮一郎教授(50)らが名を連ねる開発チームが見据える先は「病院や介護の現場での活躍」。そのために「人間味を持たせ、ユーザーに信頼される必要がある」と考え、行き着いたのは三百年以上庶民に親しまれている人形浄瑠璃(文楽)だった。
 チームは四年ほど前から文楽の人形の動作解析を始めた。当代きっての人形遣い、桐竹勘十郎さんらの繊細な操作も測定し、見る人を感動させる感情表現の奥義をデータ化。しかし、文楽の拠点である大阪は遠い。頻繁な往来が難しいため、首都圏の人形浄瑠璃一座を探したところ、伝統の中にも新しさを追究している古柳家元の一座を知った。

パソコンの操作で人の心を表現するAIロボット「かんなちゃん」

 昨春からタッグを組み、詳細なデータを収集、チームがこだわる「人間味」も解析できた。カギの一つが「弧の動き」。例えば、右手で右方向を指す時は、腕を少し左に向けてから弧を描くように右に移していく。うなだれる動作では、胸を突き出して頭をそらしてから前に垂らす。そうした動作を習得することで、感情表現の礎が出来上がった。蔡准教授は「まだ“まね”のレベルだが、かんなが浄瑠璃の動きに合わせ二、三分ほど円を描き、緩急の動きができるようになった」と手応えを語る。
 課題は、ロボット特有の動作から感じてしまう「人間離れした不気味さ」を解消し、人の心を持つような存在に近づけるか。言語心理学が専門の早野教授は「そのヒントが三百年かけて発展してきた人形浄瑠璃の“ビッグデータ”にある」という。浄瑠璃発、日本人の心の琴線に触れたAIロボットが超高齢化社会で大活躍する日を信じ、研究は続く。

◆異色の共演を動画で!

西川古柳家元

 八王子車人形西川古柳座は江戸末期、山岸柳吉(初代西川古柳)が車付きの箱に腰掛けて、一人で人形を操る「ろくろ車」を考案したのが発祥。文楽など三人遣いが主流の人形芝居に新風を吹き込んだ。二代目古柳が八王子に拠点を移し、現家元は五代目。
 今回の動画は文化庁の事業の一環として製作。義太夫方(語り)の竹本乾太夫(いぬいだゆう)さん(59)が360度カメラで撮影、VR(仮想現実)でも楽しめるようにした。西川柳玉(りゅうぎょく)さん(24)が操る人形、研究チームの東京工科大の董然(とうぜん)助手(32)が操作するかんな、アンドロイドパフォーマーのSAORIさんが繰り広げる物語。動画は15日に公開予定。YouTubeのVR版「魂時空の運行」で検索。

かんなちゃん(前)とSAORIさん


 文・神野栄子、藤浪繁雄/写真・芹沢純生
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 かんなの動きを早野教授の解説付きで視聴できます

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