日本におけるコミュニタリアニズムと宇野理論 大内秀明著

2020年11月15日 07時00分

◆農村共同体の可能性問う
[評]奥山忠信(埼玉学園大教授)

 宮沢賢治はレーニンの『国家と革命』を読んで、ダメですねと言い切ったという。本書では、賢治が社会主義に強く共鳴していたと語る父の証言が紹介されている。著者は賢治の中にあるレーニンとは異なる社会主義に着目した。
 賢治は岩手県の農村に生活し、ウィリアム・モリスのコミュニタリアニズム(本書の訳は共同体社会主義)に影響されていた。モリスは芸術で生活を豊かにする運動をした芸術家。『資本論』を再製本するほど読みつくした後に生まれたのが、共同体の生活を基礎にする社会主義運動だ。
 賢治の『農民芸術概論綱要』は「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と社会主義的視点を説き、「芸術をもて、あの灰色の労働を燃せ」と貧困にあえぐ東北の農村労働の解決策を芸術に求めた。
 レーニンは、党が労働者や農民を指導して革命を成し遂げる戦略を立てたが、戦前の東北の農村は、資本主義以前の存在であり、レーニン型の革命はなじまない。ロシアも実は同じであった。ある活動家はマルクスに、ロシアの伝統的な農村共同体が社会主義の基礎にならないのかと問うたという。マルクスは晩年、それを認めた。著者はこれを高く評価する。
 賢治と同世代の経済学者、宇野弘蔵も考察されている。宇野は、賢治の生きた戦前の農村をマルクスの『資本論』やレーニンの『帝国主義論』では解き明かせない日本的な特殊性として研究した。資本主義は、どの社会共同体にも共通にある労働生産過程を、利潤を目的とする資本が担った歴史的に特殊な社会であるというのが宇野の資本主義像である。著者は、これを宇野のコミュニタリアニズムとして受け止める。
 資本主義以前の旧(ふる)い共同体だけではなく、資本主義も共同体を前提とした社会である。『資本論』で説かれ、宇野が体系化したように、労働生産過程を担う共同体はいつでもどこでも存在する。モリスや賢治の共同体社会主義に現代的可能性はないのか、著者はこれを問いかける。
(社会評論社・2530円)
1932年東京生まれ。東北大名誉教授・経済学。宇野弘蔵に師事した。 

◆もう1冊

大内秀明著『ウィリアム・モリスのマルクス主義』(平凡社新書)

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