【動画】「デジタル通貨」の使い勝手は? 中国で5万人参加の実証実験

2020年11月16日 06時00分

「デジタル人民元」のアプリ。上にスライドすると「支払い」、下は「受け取り」の機能が表示される=10月21日、広東省深圳市で

 中国の中央銀行、中国人民銀行は10月中旬、デジタル通貨の実証実験を広東省深圳しんせん市で行った。抽選で当たった市民5万人に、スマートフォンの専用アプリを通し1人200元(約3100円)の「デジタル人民元」を提供。スーパーなどで使ってもらう壮大な実験だ。日銀を含め、世界の8割の中央銀行が研究中というデジタル通貨。広く普及する日は来るのか。実験が行われた現地を訪ねた。(深圳で、白山泉、写真も)

◆店側の初期投資も不要

 スマホを使ったQRコード決済が浸透する中国。デジタル人民元が「入金」されたスマホのQRコードをかざし、眼鏡店で眼鏡を買った女性会社員の鄒宇婧すううせいさん(31)は「使い心地はこれまでのアプリと同じだった。デジタル人民元の給料がスマホに振り込まれるようになれば、すぐに普及するのでは」と語った。
 決済はQRコードに加えて、電子マネー「Suica(スイカ)」などで使われる「NFC(近距離無線通信)」を併用。スマホ同士をかざせば、決済できる方法も研究が進む。
 代金として受け取った店側はどう感じたか。家電店主は「受け取り用のQRコードを張っておくだけでいい」と利便性を評価。スーパーの店員は「実験前に銀行の担当者が専用ソフトを入れに来たが、レジは交換していない」と話した。大がかりな準備や初期投資も必要なかったようだ。

◆金融当局がすべてを把握

 中国は2022年の北京冬季五輪会場でのデジタル人民元の使用を検討中。中国人民銀行は10月に発表した人民銀行法改正案に、デジタル人民元を「法定通貨」とすることを明記した。QRコードなど従来のスマホ決済と使い勝手は同じでも、根本的な意味づけが違う。
 ではなぜ発行を急ぐのか。中国銀行元副総裁の王永利おうえいり氏は、中国の経済紙に「中央銀行が全ての支払い状況を掌握し監督することで、的確で有効な金融政策を実行できる」と説明した。
 金融当局だけが個人情報を把握できれば、テロ資金援助やマネーロンダリング(資金洗浄)の防止に有効。民間の決済サービスが急拡大すると、当局がお金の流れを管理しにくくなる側面もあり、これがデジタル通貨研究の動機づけになっているとされる。

地下鉄に乗る際の交通カードのチャージ装置でも「デジタル人民元」が使用できると表示されていた

◆「デジタル円」の見通しは…課題山積

 長期的には「ドル覇権の打破が目的では」との指摘もある。中国人民大重陽ちょうよう金融研究院の王文おうぶん執行院長は雑誌で「米国はドルを外交の武器にし、従わない国家を制裁している」と主張した。デジタル人民元が国際的に普及すれば、ドルを介さないお金のやりとりができるようになるという。
 日本では、菅政権が「キャッシュレス化」と「デジタル化」を推進し、欧州などの中央銀行と共同研究を進める日銀が「21年度の早い時期」に実証実験を始める方針を示している。ただ具体的な発行計画はない。
 デジタル通貨は決済データを追跡しやすく、取引情報が当局に筒抜けになる恐れがある。世界に取り残されず、個人情報や安全面の問題をどう克服するのか―。課題は山積しており、「デジタル円」実現への壁はかなり高そうだ。

 デジタル通貨の現況 カンボジアでは中央銀行が発行し、スマートフォンで受け渡しできるデジタル通貨「バコン」の運用が10月下旬に始まった。銀行口座を持つ国民は約2割にとどまるが、スマホの保有率の高さが背景にある。カリブ海の島国バハマでも運用が始まったと報じられた。日本と欧米の中央銀行7行などは10月「現金や他の電子マネーと共存し物価や金融システムの安定を損なわない」とする基本原則を公表。各行とも「法に基づく厳格な規制が必要」との考えで、具体的な発行計画はまだ示していない。

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