<ひと ゆめ みらい>経営難もニャンとかなる 姉川二三夫(あねかわ・ふみおさん)(74)=千代田区

2020年11月16日 06時44分

猫を飼ったことはない。「猫カフェに行ったりして、猫のことは随分と勉強しました」と話す姉川二三夫さん=千代田区神田神保町で

 このままではいけない。何か新しいことを始めないと。猫の手を借りてでも。
 二〇〇〇年代に入ってから深刻化するばかりの出版不況。特に雑誌が売れなくなった。話題のベストセラーは、ターミナル駅などに増えた大型書店に優先的に配本され、なかなか入荷しない。ニュースで話題になっていた中小書店の経営難は、世界最大級の「本の街」神保町でも起きていた。
 営んでいる「姉川書店」は、地下鉄出口がある神保町交差点に立つ。場所こそ一等地だが、品ぞろえは特別なものではなかった。
 コンビニエンスストアのカウンターで提供する入れたてコーヒーがヒットしていたことに刺激された。「今までとは違うことをしたい」。ある日、実家を離れて猫と暮らす娘から提案された。「猫本ばかり集めたらどう?」
 猫に関心があったわけではないが「どんなことでもいいから個性を出したい」と思っていた。二〇一二年夏、猫本専門コーナー「にゃんこ堂」を作った。
 写真集や絵本など猫に関係する本を、表紙を見せる「面出し」で並べた。コーナーは、ガラス戸越しに外から見える。「かわいい」と客が集まってきた。カレンダーなど新しい商品を増やすうちに、半年もすると、五十平方メートルほどの小ぶりな店は猫で埋め尽くされた。
 長崎県出身。従業員募集の紹介を受け、高校を卒業した十八歳から、神保町の「荒井南海堂」で住み込みで働いた。まだ、街には都電が走っていた。店で売るよりも学校や会社から注文を受けて届けに行く「外売り」が多かった。忙しく配達して回った思い出がある。
 運営を任されるようになった店を十五年ほど前に譲り受け、屋号を「姉川書店」にした。独立後は逆風が続く。以前は、学生や若いサラリーマンがこぞって買い求めた「ぴあ」などの情報誌がインターネットの普及とともに売れなくなっていく。栄枯盛衰を感じた。
 現在は、六百種類ほどの猫本を並べる。猫本を出している出版社の担当者が「置いてほしい」と営業にやってくることが増えた。新型コロナの流行前は、まとめ買いする地方客も多かった。
 飼育のノウハウ本や写真集は意外と売れない。啓発本、大仏次郎や内田百〓の文学、浮世絵の解説など、猫から人生や歴史、社会のことを考える本がよく出る。「犬ではここまで幅広い本は集まらない。猫にしてよかった」。自分ではどんな猫でもかわいいと思っているが「強いて挙げれば、自由に生きている野良猫にひかれる」と言う。 (浅田晃弘)
<神保町にゃんこ堂(姉川書店内)> 東京メトロ・都営地下鉄神保町駅A4出口そば。平日10時〜20時。土曜・祝日11時〜18時。日曜定休。購入した猫本は、猫漫画家のくまくら珠美さんのイラストが印刷されたオリジナルブックカバーで包んでくれる。

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