<トヨタウォーズ5>空港のレンタカー店、帰国者の家路守る使命

2020年11月16日 11時00分

◆新型コロナ拡大で米国から帰国

 今になって振り返れば、最も忙しく、不安な1カ月の始まりを告げる電話だった。
 3月初め、羽田空港近くのトヨタ自動車のレンタカー店(東京都大田区)に勤める入社3年目の笠井彩花(25)が、電話口に立つと、相手は矢継ぎ早に質問してきた。
 「乗り捨てはできるか」「燃料代の負担は」―。
 普段はインターネット予約が多く、事前に電話してくる客はまれ。事情を聴くと、赴任先の米国で新型コロナウイルスの感染が拡大するのに備え、家族で帰国しようとしているという。

感染対策を徹底するトヨタのレンタカー店従業員ら=画像はコラージュ

 当時、帰国者は空港からの移動で公共交通機関の利用自粛が求められていた。慣れないレンタカー利用に不安を覚えての電話。「安心してご利用いただけるように」。笠井は利用手順を丁寧に説明した。

◆世界各地から帰国、日に日に利用者増える

 これ以降、欧米やアジアなど世界各地からの帰国者が日に日に増え、貸し出し対応する狭い店舗はごった返した。初めてレンタカーを利用する帰国者も多く、普段以上に説明に時間がかかって「何組手続きしても、終わりが見えなかった」。通常の車内清掃に加え、ハンドルやシフトレバーなどの除菌作業も2月から始めており、車両準備の時間は通常(10分)の1.5倍かかった。
 感染防止のために密閉、密集、密接の「3密」を避ける対策がようやく知られ始めた時期。空港から店までの送迎車両を1台から2台にし、代表者だけを店内に誘導、家族らは店外で待機してもらった。受付カウンターや送迎車両には透明の仕切りをして飛沫感染を防ぎ、清掃時に手袋を着用するなど、スタッフの感染予防策も迅速に導入した。
 ウイルスという、見えない敵、不安との闘い。客の中には、空港で受けたPCR検査の結果が出る前に帰宅し、後に陽性が判明したケースが2件あった。そのたび、対応したスタッフ数人は1週間の自宅待機になったが、通常の5割増しの人数で対応し乗り切った。

◆マスクのみで対応、大きな不安の中

 「マスクのみで対応しているメンバーも多く、大きな不安の中、お客さまのために日々頑張ってくれています」。通常、1日に70ほどの対応件数が倍増し、忙しさのピークを迎えていた4月10日、トヨタ自動車社長の豊田章男(64)が、自動車関連団体の会見で、笠井らの働きに触れた。
 豊田の言葉に「勇気づけられた」という同店では、トヨタグループの連携で届いた防護ガウンを送迎ドライバーが着用するなど、利用者の安心とスタッフの安全を再度徹底。遠くは、長崎県まで帰宅する客を送り出した。幸い計23人のスタッフに感染者は出なかった。
 「われわれが営業を続けないと、帰国者の移動手段がなくなってしまっていた。安心安全な車を提供し続けるのが使命。みんな帰国者のためを思って闘った」。現場リーダーの行延達弥(42)が仲間をねぎらう。
 帰国者の波が消えると、5月には通常時の3分の1ほどに利用者が落ち込んだ。緊急事態宣言の解除後はビジネス客などで回復してきてはいるが、訪日外国人がいつ戻ってくるのか、先は見通せない。

◆仲間と乗り越えた不安の日々

 ただ、不安な日々を仲間と乗り越えた行延は「この店は、観光やビジネスの玄関口。さまざまなお客さまに柔軟に対応できる態勢でお迎えしたい」と決意を新たにする。この冬、1.5倍の対応スペースがある近隣の新店舗に移転する。運営会社「トヨタモビリティサービス」(東京)は、レンタカーやリースだけでなく、トヨタの新たな移動サービスを提供する役割も担っている。新店舗が利用者でにぎわう日々を見据え、感染予防を徹底した対応が続く。

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