<トヨタウォーズ6>「社会に貢献するには」マスクや簡易ベッド生産、本業に生かす

2020年11月17日 17時00分

◆「自前でマスクを作れないか」

 「マスクの調達は大丈夫なのか」。3月2日、トヨタ自動車グループ、デンソー(愛知県刈谷市)の役員会。新型コロナウイルスの感染拡大でマスクの入手が難しくなり始めていた。電子部品の生産など1人1日5枚のマスクを使う現場がある同社で心配の声が上がった。
 社内に在庫は十分あったが、確保できなくなれば生産に支障が出る。「自前で作れないか」。生産担当の経営役員で「チーフ・モノヅクリ・オフィサー」の山崎康彦(57)に、役員の視線が集中した。
 帰宅した山崎は、家にあったマスクをはさみで切ってみた。不織布を挟み込んだ3層構造に「これなら作れるな」と確信。翌日、自動車部品の生産技術に精通し、設備を設計・製作する7~8人に声を掛けた。

◆ネットの動画参考に生産設備の設計図描く

 マスクの生産設備を見たことがなかったメンバーだったが、インターネットの動画などを参考に1週間で設計図を仕上げた。本社エリア中央にある「モノづくり棟」の一角、60平方メートルほどをビニールで囲み、クリーンルーム化。不織布など3つのロール素材を引っ張り、折り目を付けながら重ね合わせ、鼻芯を挿入、超音波で溶着する専用ラインを設置した。
 国内外のデンソーグループにマスクを届けるため、生産目標は1日10万枚に設定した。必要となるペースは0.5秒に1枚と、部品では経験のない速さだった。
 耳に掛けるひもの縮れを含め、調達した中国製の素材は品質にばらつきが大きかった。ひもを引っ張り出すアームをひもの出口の0.5ミリまで近づけるなどミリ単位で調整。ロール材を流したり接合したりする部品の生産技術を生かし、4月半ばから量産を始めた。

◆グループ各社に自給自足広げる

 トヨタグループを挙げて医療現場などを支援する活動「ココロハコブ(心運ぶ)プロジェクト」の一環として、地域に出回るマスクを独占することがないようにスタートしたが、徐々に生産が安定し、6月下旬以降は工場近隣の保育園や福祉施設などに一部を寄付した。ライン設計図はトヨタグループで共有し、自給自足をグループ各社に広げた。
 アイシン精機は、マスクに加え、5月から簡易ベッド台や簡易間仕切り壁を生産。医療現場などに提供している。

アイシンが生産する持ち運びできる簡易ベッド台

 ベッド台については、1960年代から昨年まで生産したベッド事業に関わった10人ほどが再集結し、1カ月半で、折り畳み式で運びやすく仕上げた。家庭用ミシンを含め過去に手掛けて撤退した事業でも、基本技能を脈々と継承する習わし。コロナ関連の支援は一過性と見られがちだが、副社長の水島寿之(61)は「経営戦略の一環」と言い切る。

◆「社会の困り事を解決」コロナ支援も同じ発想

 昨春、非部品事業からの撤退を決断したのは、電動化や自動運転など、急速に進む業界の変革に、経営資源を集中させるため。同社は、進むべき道を探る闘いの真っ最中でもある。「社会に貢献するため車はどうあるべきなのか、部品メーカーも考えなければいけない時代。部品で社会の困り事を解決する発想に変わらないと生き残れない。コロナ支援も同じ発想。だから力を入れている」
 デンソーもまた業界の変革に対し、競争力ある製品を次々に投入していくことが求められている。マスクのラインを立ち上げたメンバーは、人工知能(AI)などデジタル技術による新しいものづくりを模索する現場に戻った。
 「結局、新しい技術を使う基盤になるのは、ものづくりの技術。今回は手でものをつくる大切さ、楽しさを改めて確認できた。短期間で必死になって考えた経験はまた次に必ず生きる」と、山崎は言う。
 ガチャコン、ガチャコン。山崎の後ろで、ピストン運動するシリンダー音とともに、マスクが1枚ずつ流れていた。(敬称略)

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