<英国王室の舞台裏>(1)エリザベス1世 (アルマダの肖像画) 自らの結婚を犠牲 弱小国守る

2020年11月19日 08時02分

作者不詳「エリザベス1世(アルマダの肖像画)」1588年ごろ 油彩/板 ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー蔵 (c)National Portrait Gallery, London

◆関東学院大・君塚直隆教授が解説

 千年以上の長い伝統を受け継ぎ、いまなお世界中の注目を集める英国王室の歴史をロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリーの肖像画でひもとく「KING&QUEEN展」が東京・上野の森美術館で開催している。多くの国王たちは威厳ある姿で描かれているが、その人生は波乱に満ちたものばかりだ。本展で紹介されている四人の国王たちの生きた時代を、関東学院大学国際文化学部教授の君塚直隆氏に紹介してもらった。

君塚直隆氏

 英国王室を代表する威風堂々たる肖像画。それがこのエリザベス1世(在位一五五八~一六〇三年)を描いた《アルマダの肖像画》(一五八八年ごろ)であろう。
 「ヴァージン・クイーン」の愛称で国民から慕われたエリザベス1世は、即位当初から人間とは結婚せず、イングランドと結婚することを心に誓った。天然痘で肌に疾患が生じてからは、艶(あで)やかなカツラをつけ、厚塗りのおしろいで顔は覆われ、永遠に年を取らない「グロリアーナ(栄光に包まれた存在)」として自らを演出した。ヨーロッパでは、世はまさにバロック時代が始まろうとしていた。すなわち「演劇」の時代である。彼女の治世にイングランド最大の劇作家として活躍したのが、かのシェークスピアであった。
 この肖像画も彼女の演出の小道具のひとつ。スペイン無敵艦隊(アルマダ)による侵攻から国を守った勝利を祝して描かせた作品である。しかし、現実には虚勢にすぎなかった。当時のイングランドは経済的にも軍事的にも弱小国。戦々恐々としながら自国を防衛するだけで精いっぱいだった。この戦いの直後にイングランドは不況や不作にみまわれ、女王陛下がこの絵で身につけている真珠はすべて売り払われた。それでも借財は返済できなかった。
 とはいえ、イングランド国民は、弱小国を守るために自らの結婚を犠牲にしたこの一人の女性を心から愛した。テューダー王家とイングランドを守り通したエリザベスは、一六〇三年三月に六十九年の生涯に幕を閉じる。同じ頃、京都の伏見城では彼女より十歳若い徳川家康が征夷大将軍に任じられた。ユーラシア大陸の西と東で、まさに新しい時代が始まろうとしていた。

<君塚直隆(きみづか・なおたか)> 1997年上智大学大学院史学専攻博士後期課程修了。博士(史学)。2015年より関東学院大学国際文化学部教授。専攻はイギリス政治外交史。
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 本展は来年1月11日まで休館なしで開催中。事前予約せずに購入できる当日券を会場で販売中。問い合わせはハローダイヤル=電03(5777)8600=へ。

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