大手IT企業の会長は説く 「女性こそプログラミングを」 <アラフォー記者の探検テック>②

2020年11月19日 18時00分

★40代の記者が思い立ってプログラミング学校に通った経験とともに、「女性×テック」をテーマにIT業界の動きや課題を探っていきます。毎週木曜夕方に配信します。

◆創業30年で女性を社長に

 男性が圧倒的に多い日本のIT業界で、トップに女性が就く例は、特に大手では珍しい。ITコンサルティング大手のフューチャーアーキテクト(東京都品川区)は昨年、創業から約30年率いてきた金丸恭文・現会長から、48歳の神宮由紀氏に社長をバトンタッチした。社外取締役も含めると、役員に占める女性の比率は18.2%で、上場企業2240社の平均6%(東京商工リサーチ調べ、2020年3月期)を大きく上回る。
 どんな経緯で女性がトップになったのか。政府が旗を振る「女性活躍」に後押しされたのだろうか。インタビューで尋ねると、金丸会長はさらりと言った。
 「政府が女性活躍とか働き方改革とか言うずっと前から、われわれは女性が働きやすい環境づくりに取り組んできた。遅れた政府を追いかけているつもりはありません」

「女性にIT業界をおすすめしたい」と話すフューチャーアーキテクトの金丸恭文会長=2019年7月、東京都品川区で

◆会議室の名前はあの女性たち

 理由はただ「優秀な女性のITコンサルタントたちに、結婚や出産で辞めてほしくなかったから」だという。出産後スムーズに復帰し、子育てしながら仕事するには、どんな環境が必要なのか。当事者に考えてもらい、出てきた意見をすべて受け入れると決めた。大きなおなかを抱えた女性たち数人による社内チームが立ち上がり、2006年、勤務の場所や時間の制限なく働けるスタイルが導入された。当時、出産を終えた女性のほぼ100%が職場に復帰。今年の新型コロナウイルス対策でも生かされ、テレワークのような女性が働きやすい制度は、実は誰にとっても使いやすいということがあらためて分かったという。
 同社の会議室には、名作映画の女性登場人物の名が付いている。会議室「テス」は「ワーキング・ガール」から、会議室「イライザ」は「マイ・フェア・レディ」から。会社全体で女性を後押しするというメッセージだ。神宮社長が後継に決まったのも、このように男女の隔てがない素地があった上で、オープンな審査を経た自然な流れだった。「彼女のプレゼンテーションはポジティブ・シンキングだった」と金丸氏は振り返る。介護でいったん離職し、その後別のIT企業に勤めてフューチャーに戻った異色の経歴も、プラスに評価された。

フューチャーアーキテクトの神宮由紀社長(同社提供)

 そもそも「IT分野は女性がもっと参入すべきだと思っています。生涯年収が比較的高く、子育てや介護があってもテレワークでできる」と金丸氏は強調する。

◆論理的思考ができれば誰でも可能なのに

 独立行政法人「情報処理推進機構(IPA)」の「IT人材白書2020」によると、情報サービス業の女性の人材の割合は約24.8%。ここ数年で拡大したものの、全産業の44.5%に比べると半分程度だ。IT分野の女性の人材不足は各国で共通する課題だが、欧米などに比べて日本は一段と少ない。同白書の2017年版は、日本での女性の割合は米国の半分にとどまると指摘している。
 そもそも女性を採用しようとしても、大学でコンピューターサイエンスなどを学ぶ女子学生自体が少ない問題を金丸氏は指摘する。「論理的思考ができれば誰だって向いている。それにもかかわらず、『理系は男子』という雰囲気があるのはおかしい。プログラミングの世界は男子が多すぎて、男子が進むべきだと女子も思い込んでいる」。フューチャーアーキテクトの女性社員は今も約2割で、ITコンサル職で劇的に増やすのは難しい状況だ。

◆「実力があれば評価される」強み

 実際に女性がIT分野で働く強みを語ってくれたのは、家計簿アプリなどを手がけるマネーフォワード(東京)でエンジニアとして働く西村由佳里さん(31)だ。「IT業界は実力がすべて。コードを書いてきちんとシステムが動けば、性別に関係なく評価される」と話す。同世代に比べて収入面でも恵まれているし、プログラミング技術を身につけていることで将来、職にあぶれる不安もほとんどないという。

子どもの頃からの夢だったエンジニアとして働く西村由佳里さん=東京都内で

 ただ、業界に入るまでに、女性には多くの壁があることも西村さんは実感してきた。人口3万人ほどの奈良県の町で育った西村さんが、エンジニアを目指すようになったのは「環境が大きい」と言う。きっかけは小学2年の時、東大阪の町工場に勤める父親が買ってきたパソコン。中学や高校の進学祝いにはコンピューターのパーツをねだり、図書館でコンピューター雑誌を読みあさる珍しい女子だった。家は決して裕福ではなかったが、高校在学中に独学で情報処理の国家資格を取り、国立大学で情報工学を学ぶ道を自ら切り開いた。
 でも、同じ専攻で女子は1割程度。就職してからも、男性中心の業界のカルチャーに、孤立感を感じることは少なくなかったという。「テック雑誌などの教育コンテンツを見ても、女性も興味が持てるつくりになっていません。女の子がコンピューターの分野を目指す入り口が少ないんです」と西村さんは残念がる。

◆女の子の可能性を閉ざさないために

「ルビィのぼうけん こんにちは!プログラミング」(翔泳社より)

 カギは子ども時代にある。金丸氏は、ある絵本を周囲に勧めていると教えてくれた。フィンランドのプログラマー、リンダ・リウカス氏が書いた「ルビィのぼうけん」。好奇心旺盛な女の子「ルビィ」が宝石を探す物語を通じて、プログラミングの考え方に自然に触れられる。女の子が自然にIT分野を目指す可能性を閉ざしてほしくない、という思いからだ。「ルビィ」は、プログラミング言語の1つ「Ruby」でもある。
 来年度以降、中学校、高校でもプログラミング教育が本格化する。でも、このまま導入されるだけでは、金丸氏や西村さんが憂慮するように、女の子たちの多くは傍観者になってしまうだろう。社会のステレオタイプを取り払って、積極的にITの世界に導く工夫が必要とされている。そんな取り組みの1つで、女子中高生に特化したプログラミング講座を開く女性たちの思いを、次回(11月26日)紹介したい。(小嶋麻友美)
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