<備えよ!首都水害>決壊地点に応じ対策を 病院浸水 その時 患者は妊婦は新生児は

2020年11月20日 06時56分

▲赤字は、区ごとの推計で最多となる患者数

 堤防の決壊で病院が浸水すると、患者の命が危険にさらされることは容易に想像できるが、どこが決壊するかで被害を受ける病院数も患者数も大きく異なる。東京都内では、荒川が北区志茂で決壊すると最も被害が大きくなる。さまざまな氾濫パターンに応じたリスクの把握と備えが必要だ。
 東京大の池内幸司教授、広尾智彰氏ら河川工学の研究グループが、荒川下流部の想定最大規模降雨による洪水浸水想定区域をもとに、浸水する病院数と、命の危険にさらされる患者、妊婦・新生児を推計した。
 想定した堤防の決壊場所は(1)江戸川区松島(左岸河口から5・25キロ地点)(2)葛飾区堀切(左岸同10キロ地点)(3)川口市元郷(左岸同21キロ地点)(4)墨田区墨田(右岸同10キロ地点)(5)北区志茂(右岸同21キロ地点)。

パターン(5)北区志茂(右岸河口から21キロ)

 東京で最も深刻なのが(5)のパターン。荒川と隅田川に水を分けて流す岩淵水門付近で、首都の水防の要となるエリアだ。ここが決壊すると六十の病院が浸水被害を受け、入院患者のうち約二千七百人が命の危険にさらされる。内訳は、集中治療室(ICU)など特別室の患者約百八十人、医療機器による管理が必要な患者二千人弱、透析患者約百六十人、呼吸器系疾患の患者四百五十人弱、妊婦・新生児約三百人。深刻化のペースはとても速く、氾濫から七十二時間後には約二千三百人に達する。
 危険なのは入院患者だけではない。人工透析科・腎臓内科設置の二十四病院が浸水し、通院患者は透析先を探す必要に迫られる。

パターン(3)川口市元郷(左岸河口から21キロ)

 埼玉県では、戸田市や川口市などが浸水するパターン(3)が最悪。三十六病院、危険な状態に陥る患者数は千人以上。状況が悪化するタイミングも最も速い。
 一方、荒川、千代田、台東、中央、板橋区は(1)〜(4)では影響を受けないが、救助を要請する側から受け入れ側に転じる可能性があり、対策を講じる必要がありそうだ。

パターン(1)江戸川区松島(左岸河口から5.25キロ)

パターン(4)墨田区墨田(右岸河口から10キロ)

 また、川に囲まれたエリアが浸水する(1)と(4)では、妊婦・新生児を救急搬送する際に橋を渡れるのかという課題も浮かんでいる。
 このように、どこが決壊するかで被害を受ける自治体は異なる。池内教授は「氾濫パターンごとに病院が抱えるリスクの特徴を踏まえて必要な対策を講じ、大規模水害時の被害軽減を図るべきだ」と指摘。氾濫パターンで影響を受ける自治体が異なる東京では、水害発生時の病院への情報伝達の方法や体制を氾濫パターンに応じて事前に検討し、整備するよう求めている。

パターン(2)葛飾区堀切(左岸河口から10キロ)

 都によると、重症者の治療を担う災害拠点病院などの浸水対策の費用は一部負担している。しかし、一般の病院や診療所には水害を想定したBCP(事業継続計画)作成を促すことを検討しているが、自助努力に頼っているのが現状だ。
※地図と表は論文「大規模水害時における病院のリスクの抽出およびリスクの上昇する患者の推計」をもとに作成

◆松尾一郎先生のミニ講座 避難確保計画の作成急務

 今年七月の熊本県球磨川水害で浸水した特別養護老人ホーム「千寿園」では十四人の入所者が逃げ遅れて犠牲となった。二年前に土砂災害を想定した避難計画を作成し、避難訓練も行っていた。計画では警報発表で職員が参集し、避難準備情報で避難を開始し、小学校などに避難するはずだった。
 しかし、線状降水帯を伴った短時間の豪雨で本流も支流も氾濫し、なすすべもなかった。この教訓は避難計画が土砂災害だけを対象としていた点だ。施設の災害リスクを再考すると、洪水も対象とし、緊急避難の場所も準備すべきだった。
 このような社会福祉施設や学校、医療施設を要配慮者利用施設という。水害や土砂災害に備えた避難確保計画の作成が法律で義務化されている。その数は全国に八万六千カ所、東京都内で四千六百カ所に上る。
 計画の作成は都内で53%、荒川下流で浸水エリアを有する特別区では49%にとどまっている。災害リスクをもとに、市区町村と情報を共有しながら早めに対応する体制構築や入所者の緊急避難スペースの整備などより実効性を高め、計画づくりを急ぐことが重要である。 (防災行動学・東大大学院客員教授)
 文・大沢令
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