緊急提言 パンデミック ユヴァル・ノア・ハラリ著

2020年11月22日 07時00分

◆深い洞察から「連帯」訴え
[評]高橋和夫(国際政治学者)

 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)という現象と偉大な知性が衝突すると、どのような議論が出て来るだろうか。そうした知性の一人としてユヴァル・ノア・ハラリが数えられる。『サピエンス全史』などの世界的なベストセラーで知られるイスラエルの歴史家である。
 パンデミックとハラリの出会いの結果が本書である。著者が世界の高級紙に寄稿した論考とNHKの道傳(どうでん)愛子キャスターとのインタビューを採録している。ハラリによれば、人類は岐路に立っている。現在の危機への対応が人類の将来に大きな影響を与えるだろう。選び取るべきは自国優先主義の偏狭な民族主義ではなく、人類の連帯であり国際協力である。伝染を追跡するためのプライバシーを無視した監視の強化ではなく、プライバシーを尊重した対応だ。
 こうした結論は妥当ではあるが、驚くべき提案ではない。だがハラリの議論には抗(あらが)えないような説得力がある。それは、深い歴史の洞察に基づいているからだ。たとえばコロナ対策として国境を封鎖するなどのグローバル化への逆行は解決策ではないとする。なぜならば、中世のような人の往来の少なかった時代においてさえ、疫病が世界に広がり多くの命を奪ったからだ。歴史家ならではの指摘だ。
 「皮下監視」というハラリの議論を紹介したい。これは時計のような器具を装着させれば、国民全員の体温や血圧や脈拍の動きを政府が把握できるようになる。パンデミックへの対策として有効そうだ。しかしそうしたデータに反映される人間の感情さえも政府が監視できるようになる。例を挙げれば、独裁者の演説に拍手を送っても内心では反感を覚えている。そうした感情を隠せなくなる。人々の外面的な行動ばかりでなく、内面までも監視できる社会が近づいていると警告する。
 今回のパンデミックにおいてもプライバシーを尊重した対応の重要性が必要なゆえんである。このハラリという歴史家の射程には、過去ばかりでなく現在が、そして未来が入っている。読後に軽い悪寒に襲われた。
(柴田裕之(やすし)訳、河出書房新社・1430円)
1976年、イスラエル生まれ。歴史学者、哲学者。著書『ホモ・デウス』など。

◆もう1冊

バーバラ・W・タックマン著『遠い鏡 災厄の14世紀ヨーロッパ』(朝日出版社)徳永守儀訳。

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