「アウティングは不法行為」 踏み込んだ司法判断を遺族切望 一橋大転落死訴訟25日に控訴審判決

2020年11月21日 09時58分
 同級生から同性愛を暴露され、一橋大の校舎から転落死した男子大学院生=当時(25)=の両親が、事故に至るまでの対応が適切でなかったとして大学を訴えた裁判の控訴審判決が25日、東京高裁で言い渡される。本人の同意なく性的指向を暴露する「アウティング」の違法性について、一審は司法としての判断を示さなかった。両親は「アウティングは不法行為だと明確にし、大学が取るべき対応と責任を示してほしい」と訴える。(奥野斐)

妹と一緒に写る男子学生の写真。奥は愛用していたチェロ=名古屋市内で

 「病院の霊安室で息子の顔を見た時、何でだ、と頭が真っ白になった」。男子学生の60代の父親=名古屋市=は、5年前の光景が忘れられない。
 2015年8月24日夕、病院からの連絡で息子が校舎から転落したと知った。夜に駆けつけると、既に息を引き取っていた。
 両親によると、翌25日、大学関係者との面会で開口一番に告げられたのは「ショックなことを言います。息子さんは同性愛者でした」という言葉だった。50代の母親は「それが何なんですか? 個性じゃないですか」と詰め寄った。
 息子から同性愛者であると言われてはいなかったが、大学でトラブルを抱えているとは聞いていた。亡くなるまでの経緯や当日の様子などを尋ねたものの、大学側は守秘義務などを理由に詳しい説明をしなかったという。
 男子学生は恋愛感情を告白した同級生から「おれもう、おまえがゲイであることを隠しておくのムリだ」と、実名を挙げてLINEのグループに投稿された。
 男子学生は吐き気や不眠に悩み、心療内科で薬を処方されるほど体調が悪化。法科大学院の教授にクラス替えなどを求め、学内のハラスメント相談室に相談し、ハラスメント対策委員会にも申し立てる準備をしていた。

男子学生の転落死を巡る控訴審判決を前に心境を語る(手前から)妹、母親、父親=名古屋市内で

 男子学生は亡くなる直前に帰省したが、家族はアウティングが原因とは知らなかった。両親がそうした経緯を知ったのは1カ月後。息子のパソコンから資料を見つけた時だった。「どうして亡くなったのか、知りたい」。しかし一審判決ではアウティングが人格を傷つける危険な行為であることや、大学が講じるべき対策に言及がなく、両親らは落胆した。
 一方、この5年でLGBTなど性的少数者への認識は広がった。一橋大がある国立市は18年、アウティング禁止を明記した条例を施行。ハラスメント対策の指針に加える大学も増えた。今年6月にはパワハラ防止法で企業にアウティング対策が義務付けられた。
 控訴審判決を前に、男子学生の妹(28)は「兄がどれだけ傷ついていたか。助けを求めた大学はどういう対応を取ったのか。法律家を育てる場所として適切だったのか」と憤る。両親は「同意ない暴露が人を死まで追い詰めるとの意識が広がってほしい」と語った。
 一橋大広報室は「(裁判が)係属中であることから取材を受けることを差し控えたい」とコメントした。

 ▽一橋大アウティング裁判 一橋大法科大学院3年の男子学生が2015年6月、同級生9人が参加する「LINE」のグループに同性愛者だと書き込まれた2カ月後、校舎から転落死した。両親は16年、書き込んだ同級生と大学に損害賠償を求めて提訴。同級生とは18年に和解した。19年2月の一審判決は、大学の対応が安全配慮義務に違反したとはいえないとして請求を棄却。両親は控訴、和解協議は不調に終わった。

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