「残酷さ」にひかれる 出産と育児をへて新作・川内倫子さん(写真家)

2020年11月21日 13時46分
 まぶしく注ぐ光と、生暖かく漂う不穏な空気。写真家・川内倫子さん(48)はこれまで、隣り合わせになった生と死のはざまにカメラを向けてきた。デビューからまもなく二十年。出産と育児をへて、母親にもなった今、レンズを通して見える風景に変化はあったのだろうか。東京都内の事務所で、話を聞いた。
 今年、新作の写真集とエッセーを相次いで発表した。出産を控えた二〇一六年秋から約三年間で撮りためた写真集『as it is』。春の暖かそうな日差しを心地よさそうに浴びているのは、まな娘だろうか。子育ての中で見えた子供の姿や身の回りの光景を、淡く、軽やかな質感でとらえる。エッセー『そんなふう』では、出産と育児の記録を、写真を添えて赤裸々につづった。
 「以前は何かしら死に向いていた部分はあったけれど、子どもができて責任感が芽生えました。それが、生きることのエネルギーに向かっているのかもしれません」。川内さんの作品は変わった。これまでの写真から直観的ににおっていた「死」の気配は、ずっと薄らいだように見える。
 滋賀県東近江市出身。子供のころからデッサンなど写実的な絵を描くのが好きだった。美術系の短大でグラフィックデザインを専攻したが、週一回あった写真の授業が、その後の道を決めた。「自分が実際に見たものが紙に定着されるというのが面白かったんです。目の前にあることをもう一度、自分の中で咀嚼(そしゃく)して考える時間があるという意味で、写真がちょうどよかった」
 卒業後は広告の写真スタジオで働きながら技術を学び、二十五歳でフリーに。〇一年に三つの写真集を同時発表。翌年、このうち『うたたね』と『花火』で、「写真界の芥川賞」といわれる木村伊兵衛写真賞を受賞した。
 餌を求めて群がる魚や、路上に咲く草花など、ささやかな日常を切り取った『うたたね』、華やかな夜空にどこかはかなさが交錯する『花火』。その後は、ブラジルで撮影した『Semear』(〇七年)、阿蘇(熊本県)の野焼きなどを題材にした『あめつち』(一三年)などの写真集を発表。映像作品も精力的に手がけ、国内外で評価を高めてきた。
 川内さんの関心は、日常世界から、壮大な自然や現象に向かったのではないか−。そう感じさせる、スケールの大きな活動が近年は続いた。そして今回は原点に立ち返り、再び焦点を目の前の光景に合わせたように見える。だが「実は日常を撮っていたという気持ちはないんですよ」。本人の意識は、少し違った。
 「被写体が身近なものから大自然の現象になったり、体が外国に向かったりという移動は確かにあります。けれど被写体が変わっても、目線それ自体は、自分の中ではずっと変わってなくて」。ではその目線とはどこへ向き、何を感じていたのだろう。川内さんは「残酷」という言葉を使って解説する。「被写体が何であれ、もう今が終わるという残酷さかな」
 それは、出産後に被写体にしている子供の姿にも感じる。「例えば話せなかった言葉が次の日に話せるようになったりする。子育てしていると時間の変化、流れが分かりやすいですよね。去年見ていた姿、景色とまったく違うというところで、残酷だなと思うんです」
 娘は今年で四歳。カメラを向けると避けるようになったという。「人間らしく振る舞うようになってしまったので、今までのようには撮れなくなってきた。これからは意識して写真に残さないといけないですね」。日々成長する姿に喜びを覚える一方で、募るさびしさ。それもまた、川内さんのひかれる「残酷」の一部なのかもしれない。 (宮崎正嗣)

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