<カジュアル美術館>空間の鳥 コンスタンティン・ブランクーシ 横浜美術館

2020年11月22日 07時06分

1926年(1982年鋳造) ブロンズ、石灰岩 132・4×35・5×35・5センチ

 細長い金属が、天に向かって大きく伸びている。キラキラしてきれいだ。よく見ると、この金色の物体には微妙なカーブがある。左右対称ではないところが生き物めいているような…。
 いくら見ても分からないので、あきらめて背を向けた。歩み去る途中で、ちらっと振り返ってみた。あれ…? 獲物を狙う猛禽(もうきん)類が、じっと動きを止めて台座にとまっている。突然、そんな錯覚に襲われた。
 作者はルーマニア出身でパリで活躍した彫刻家コンスタンティン・ブランクーシ(一八七六〜一九五七年)。二十世紀の抽象彫刻に多大な影響を与えた。この作品のモチーフは、祖国の伝説の鳥。歌声に魔力を持つ「マイアストラ」だ。
 これと全く同型の作品が米国に輸入された一九二六年のこと。絵画や彫刻は無税のはずが、ニューヨークの税関は「金属製品」として40%の税を課した。ブランクーシ側は提訴。「鳥に見えるか、否か」。そんな不毛な論争が一年以上続いた。判決は「鳥との関連づけに多少の困難があるが、見る者に楽しみを与え、高度に装飾的である」と、抽象彫刻を美術だと認めた。
 「この判例が、その後の美術史を変えた。米国には最先端アートが続々と持ち込まれるようになり、ニューヨークが中心地になった」と横浜美術館の松永真太郎主任学芸員は語る。従来の芸術は、人や動植物の姿を写しとる「具象」が中心。そこへ作家が自分の心のありさまを表現し、鑑賞者の心を揺さぶる「抽象」の流れが米国で生まれ始めたのだ。
 ただ、ブランクーシ自身は作品を「抽象ではない」と語っていたそうだ。
 制作の十四年前、一九一二年。作家は盟友の芸術家マルセル・デュシャンらと、パリで開かれた航空機博覧会に出掛けた。そこで目撃したのは、航空機のプロペラ。科学技術が飛ぶことを追究した「究極の機能美」だった。「ブランクーシは『鳥という存在』を純粋な形に昇華させようとしていました」(松永さん)
 鳥のディテールを限界まで省いて飛ぶことの本質を極めた形が、この彫刻。とすれば「抽象ではない」ことも納得する。それが米国で抽象芸術が広まる契機となったのは皮肉だが…。
 一方、画家だったデュシャンは博覧会で圧倒された後、絵筆を絶った。その後は円盤がぐるぐる回るだけの短編映画や、ただの便器を展示して「泉」と名付けるなど、ぶっ飛んだ作品を発表。アートの概念を根底から覆し、天才肌を見せつけた。
◆みる 横浜美術館(横浜市西区)は、みなとみらい線「みなとみらい」駅から徒歩3分。「空間の鳥」は、企画展「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」で来年2月28日まで展示。午前10〜午後6時、木曜、年末年始休み。同企画展は一般1500円、大学・専門学校生1100円、中高生500円、小学生以下無料。日時指定予約制。 
 文・出田阿生
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