最後のとりで「児相」の仕事に密着した㊤ 主婦から転身したチーフの決意

2020年11月23日 09時24分

同僚と打ち合わせする北児童相談所の花田和美さん(中)=東京都北区で

 子どもたちを虐待から守るために中心的な役割を担うのが、全国の児童相談所だ。11月は児童虐待防止推進月間。東京都北児童相談所の職員の仕事に密着し、見えにくい業務の実情や子どもたちへの思いを取材した。(全3回、奥野斐・小林由比)
 東京都心から郊外へ向かう車内で、まだあどけなさも残る10代の男の子は、ずっと窓の外を眺めていた。「暑くない?気持ち悪くなったら言ってね」。声を掛けて気遣ったのは、都北児童相談所の児童福祉司、花田和美さん(54)だ。

◆新生活の日に用意したスーツケース

 複雑な事情がある家庭に育つ男の子は約2カ月前、親と暮らせなくなり北児相に一時保護された。この日、一時保護所を出て新生活を始める児童養護施設に向かうため、担当の花田さんが付き添った。ランドセルや衣類が入ったスーツケースも花田さんが用意した。
 緊張した面持ちで施設に足を踏み入れた男の子。担当職員の話に時折うなずく。引き継ぎを終え「じゃあ、またね」と声を掛ける花田さんをじっと見つめ、ゆっくり首を縦に振った。
 不安定な家庭の状況に耐え、突然始まった保護所での生活にも必死で適応してきた男の子は、これからは施設近くの学校に通う。「まずは学校に行かせてあげたかった。彼がもっと感情を出せるようになって、望む進路を選べるようになれば」。施設に入所させた思いを、花田さんはそう語った。
 北児相は7月から北区と板橋区を担当する。荒川区も担当していた昨年度の虐待相談は1650件、一時保護は254件。約60人の職員のうち、板橋区担当の児童福祉司は花田さんら10人で、それぞれが継続的に関わっているケースは常時100件ほどある。
 施設に付き添った日の午前中には、病院で一時保護されている別の男の子の支援策を話し合う会議があった。感情のコントロールが利かず衝動的な行動があるため家庭で過ごせなくなり、夏ごろ保護した。
 児相の児童心理司と共に、子どもの様子を主治医やソーシャルワーカーから聞き取った花田さんは「退院後も定期的な通院や、訪問看護で見守っていきましょう」と提案。本人や母親とも面会した。「直接会って様子を見ることが、とても重要なんです」

◆50歳で主婦から転身

 主婦だった花田さんは子育てが一段落後、教員免許を生かして特別支援学校などに勤務。千葉県の自治体の子育て支援課にも非常勤で8年勤めた。目にしたのはネグレクトや、しつけと称した体罰などの犠牲になる子どもたち。「最後の最後で力になれるのは児相。児相にしかできない役割がある」と思うようになり、都のキャリア活用採用に応募し50歳で入庁した。
 今春からは板橋区担当のチーフを務め、担当者から受け持ちの報告を受けて助言するのも重要な仕事だ。毎週開く区担当の会議では2時間で200件以上の子どもの様子が報告される。親に精神疾患があるために育てられず乳児院にいる赤ちゃん、他の子に性的加害をした少年、父親から暴力を受け続ける高校生…。

◆「良かったね」チーフが見せた笑顔

 終始厳しい表情で報告を聞く花田さんだが、親が薬物使用で逮捕されたため施設にいた子が親族の元で暮らせることになった、との報告には「良かったね」と笑顔を見せた。
 「子どもにも親にも誠実に、親子にとって最善だと思うことを毎日積み重ねるしかない。親子が自立して暮らせるようサポートしたいのです」

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