<トヨザキが読む!豊﨑由美>原正人が訳す 仏語漫画「バンド・デシネ」 絵も物語も芸術的

2020年11月23日 07時26分
 日本全国で『鬼滅の刃』旋風が巻き起こっていて、原作ファンであるわたしも、早く映画館で煉獄(れんごく)さんの活躍を全集中で目に焼きつけたいと気がはやる今日この頃。とはいえ、漫画大国ニッポンには『鬼滅』ばかりではなく、いろんなタイプの傑作がそろっているのはご存じですよね? ではでは、海外は? たとえば、フランス語圏の漫画「バンド・デシネ(BD)」。

『レベティコ』 ダヴィッド・プリュドム著、原正人訳 サウザンブックス社・3300円

 BDの多くの作品の特徴は、絵と文章それぞれの表現の両立です。「グラフィックノベル」と言われるくらいで、普段は漫画を読まない方でも瞠目(どうもく)必至の作品が、ここ十年くらい精力的に訳出紹介されています。ためしに、最近刊行されたダヴィッド・プリュドムの『レベティコ』を開いてみてください。
 「ギリシャのブルース」とも言われる音楽、レベティコ。独裁者のメタクサスが政権を握り、レベティコの演奏者をならず者として摘発していた一九三六年のある一日を描いたこのBD、まずは視覚表現の見事さに目を奪われること必至です。そんな一コマ一コマから音楽が聞こえてくるような画業もさりながら、レベティコの歌詞を織り込んだ物語を支えるせりふのひとつひとつが素晴らしい!

『3秒』 マルク=アントワーヌ・マチュー著、原正人訳 河出書房新社・1980円

 翻訳を担当しているのが原正人。この人こそが、BD翻訳界の柴田元幸。つまり、メキキスト。メビウスの『エデナの世界』、マルク=アントワーヌ・マチューの『3秒』、バスティアン・ヴィヴェスの『塩素の味』などなど、原さんが訳した作品にハズレなしなのです。なかでもトヨザキが熱烈推薦したいのが、ディズニーアニメの暗黒パロディーというべきヴィンシュルスの『ピノキオ』。

『ピノキオ』 ヴィンシュルス著、原正人訳 小学館集英社プロダクション(古書のみ)

 この作品におけるピノキオは、金の亡者の発明家によって作られた戦争用大量破壊ロボット。自分の意思というものがなく、発明家の家を出た後は、さまざまな人間に利用されながら波瀾(はらん)万丈の旅路をたどることになります。そこに、ピノキオの頭の中で生活している芸術家気取りのゴキブリ・ジミニーや、妻の死後に姿を消した発明家の行方を追うアルコール依存症の刑事、切り裂きジャックのような連続殺人鬼、好色で邪悪な七人の小人が屍体(したい)から作り上げた白雪姫、悪夢のディズニーランドのごとき島を支配する狂気の独裁者といったサブストーリーが合流していくんです。
 絵も物語も最高の高! 漫画ファンはもちろん、文学好きにもオススメしたい逸品です。
<とよざき・ゆみ> 1961年生まれのライター・書評家。「週刊新潮」「婦人公論」などさまざまな媒体に連載を持つ。主な著書に『ガタスタ屋の矜持(きょうじ)』『まるでダメ男じゃん!』『ニッポンの書評』、『文学賞メッタ斬り!』シリーズ(共著)、『石原慎太郎を読んでみた』(同)など。
 *次回は12月28日掲載予定です。

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