<働く+休暇 ワーケーションを考える>(下)あいまいな境界線 定着にルール整備必要

2020年11月23日 07時36分
 三重県四日市市の一般社団法人代表理事、中村憲和さん(44)は今夏、五泊六日で沖縄へ飛んだ。コロナ禍で在宅勤務が続いたのを機に、観光地などで休暇を楽しみながらテレワークをするワーケーションを試したいと考えたのだ。
 仕事はするつもりだったが旅も満喫しようと意気込んでいた。しかし、「休暇を兼ねている」とは対外的に言いづらく、実際はオンライン会議など宿泊先で缶詰めに。シーカヤックを二時間体験しただけで終わってしまい、「失敗だった」と振り返る。
 仕事が主か、それとも休暇が主か。ワーケーションの定義はあいまいだ。
 日本旅行(東京)などが八月、テレワーク導入企業の社員と経営者約三百三十人ずつに行った調査では、六割超の社員がワーケーションに興味があると回答。ただ不安に関する設問(複数回答)では、うち半数を超える人が「休暇が仕事になる可能性がある」と答えて最多だった。
 一方で、経営者が懸念するのは評価や勤怠管理の難しさだ。導入に前向きな回答は半数を超えたが、うち「仕事の適切な評価が難しい」「勤怠管理が難しい」と答えた人がいずれも七割を超えた。
 食品・日用品大手のユニリーバ・ジャパン・ホールディングス(東京)は二〇一六年から、働く場所と時間を選べる制度を始めた。一年目から社員の九割以上が利用し、旅先で仕事をする例もあるという。働く場所と、想定される勤務時間を事前に申請し、承認を得ればOK。上司は、本人が勤怠管理システムに入力した労働時間が申請通りかどうかを確認するだけだ。
 同社では、社員一人一人の業務範囲が明確に定められており、成果さえ上げれば「時間はどう使ってもいい」という考え方が浸透している。制度導入に合わせ、一日のうち必ず勤務しなければならない時間帯「コアタイム」をなくしたことも柔軟な働き方を可能にした。
 従来のように一日の労働時間が決まっていて、それが評価の対象になる企業だと、ワーケーション中、仕事を途中で抜けて観光などをすれば、その分遅くまで働く必要がある。結局、休暇先で仕事に追われることになりかねない。
 もう一つの課題は労災の扱いだ。テレワークに詳しい社会保険労務士の寺島有紀さん(33)は「通常より認められにくい可能性が高い」とみる。会社命令で行った場所でないことや、業務とプライベートの境があいまいなためだ。
 ほかにも、旅費の負担や情報漏えいの回避など企業が定めるべきルールは多い。寺島さんは「労働時間など就業規則を変えるのは大手ほど手間がかかる」と指摘。「現時点での導入は一部の企業に限られるのでは」と言う。
 ワーケーションを進める観光庁は今月中にも、国内数カ所で、十社程度の社員が休暇を兼ねて働くモデル事業を実施。その結果も踏まえ、社内規定や労災などに関するQ&Aをまとめた冊子を作る。山梨大教授の田中敦さん(57)は「多様な人材を生かす意味で、働き方、休み方の自由度が上がるワーケーションは選択肢としてある方がいい」と説明。一過性で終わらせないためには「地域の人との交流など『また来たい』と思える体験ができることが大事」と話す。 (熊崎未奈)

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