さわやか信金羽田支店 6人守った「凄腕」 決め手は聴く力 ニセ電話詐欺防止の「とりで」

2020年11月24日 06時29分

10年来の顔見知りの利用者と談笑する吉行さん(左)=写真はいずれも大田区のさわやか信用金庫で

 ニセ電話詐欺の被害件数、額とも全国最多の東京都で、だまされている高齢者を窓口で見抜き、財産を守る金融機関の職員たちがいる。中でも、さわやか信用金庫羽田支店(大田区)の吉行公子(ひろこ)さん(59)は、顧客6人の預金を守った「凄腕(すごうで)」。なぜ食い止めることができたのか。そこには、地域密着で高齢者に寄り添い、じっくり話を聞く「傾聴力」がある。
 「定期預金を解約したい」。二〇一八年十月、窓口が閉まる午後三時前、吉行さんの窓口に顔見知りの女性が訪れた。数万円から数十万円を引き出す客が多い中、女性の希望は、二百万円だった。
 「失礼ですが、何にご入り用ですか」。吉行さんが尋ねると、女性は「入院費用」としか説明しない。「そうなんですね。大変ですね」と頷(うなず)きながら、世間話を交え、さらに尋ねる。女性は「義理の母が入院して。午後四時の電車に乗り福島に行く」と話した。
 「義理のお母さん?」。女性の年齢は、八十歳を超えている。心の中で不審に思いつつも、吉行さんは顔には出さない。さりげなく女性の服装を見回しても、手荷物もなく遠出をするようには見えなかった。

ニセ電話詐欺を防いだ時の話をするさわやか信用金庫羽田支店の吉行公子さん

 だまされているのではないか−。家族に確認したい旨を伝えると、女性は拒否。その後、無言を貫いた。蒲田署に連絡し、駆けつけた警察官が女性を問い詰めると、ようやく「実は孫から電話があって…」と話し始めた。女性が電話で指示された待合場所で警察官が張り込んだが、孫を名乗る人物は現れなかった。
 「じっくりとお客さまの話に耳を傾けることが大事です」。入庫十八年目のベテラン・吉行さんは、物腰柔らかに語る。
 ニセ電話の詐欺犯は、孫や息子を装い「会社に損失を与えた」「事故を起こした」と、他人に相談しにくい作り話で、被害者をだます。吉行さんによると、引き出し理由や家族に連絡を取りたい旨を伝えると、怒って帰ろうとする人も少なくないという。そんな時は「こちらでゆっくり話しましょう」と丁寧に支店の個室に誘う。「預けていただいている財産を守る義務がある。警察官が来るまで引き留める」と語った。
 川端将夫・羽田支店長は「全職員が同じように警戒する中で、吉行さんは普段と違うお客さまの空気を感じ取る嗅覚がある」と評する。警視庁のある捜査員は、「怒る高齢者を引き留めるのは、金融機関にとって負担は重いが、そういった職員がいるから被害が防げる」と感謝する。

大田区のさわやか信用金庫羽田支店

◆金融機関が活躍中

 昨年一年間に警視庁が認知したニセ電話詐欺は三千八百十五件で被害総額七十五億円。一方で未然に防止できた件数も千九百四十九件あり、うち約半数を金融機関が占めた。
 警視庁によると、一二年四月以降、一人の職員が詐欺被害を防いだ最多人数は七人で、多摩信用金庫の女性職員だった。次ぐ六人が、吉行さんの他に、みずほ銀行の三行員と三菱UFJ銀行の一行員。五人が、ゆうちょ銀行の三行員、城南信用金庫と巣鴨信用金庫の各一職員だった。
 吉行さんは、「窓口が相談を受け、お客さまの財産を守る最後の『とりで』です」と語った。
 文・井上真典/写真・市川和宏
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

関連キーワード

PR情報

TOKYO発の新着

記事一覧